研究課題/領域番号 |
20J14165
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
池田 さやか 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 公権力 / 公〈開かれた/open〉法廷 / 異なる権力の併存・相互補完関係 |
研究実績の概要 |
2020年度は、①戦国期畿内における紛争裁定の分析、②支配者側の法的支配における〈曖昧性〉についての検討、③戦国期における「公」の権力についての分析、という三つの観点から研究を行うことを目的とした。以上の研究目的を踏まえ、2020年度は通年で六角氏法廷の分析を行い、当該期における「御法」は事件当事者を拘束する制定法主義ではなく、判例法主義的な要素が伺えることを明らかにした。 また、戦国期畿内において三好氏法廷が取り扱った相論として「山城国・上賀茂社領静原の新井手を巡る相論」を題材として研究を行った。当該相論では、戦国期において急成長した三好氏に訴訟が持ち込まれたが、室町幕府裁判制度の有用性が消失した訳ではないとした。訴訟提起者は、訴訟事案の性質や紛争裁定者との関係性などを総合的に勘案し、どの法廷に訴訟提起するか決定。訴訟提起により、訴訟を受理した裁定主体の「公権力」化が促されると推定した。その「公権力」化は、複数存在した紛争裁定主体の対立を示すものではなく、異なる権力の併存・相互補完関係を示す。「公権力」が分裂していた戦国期においては複数の法廷が併存し、法的支配の面では相互補完関係にあったとした。 また、佐々木六角氏の紛争裁定や「六角氏式目」を題材として、当該期における「公権力」の有り様について明らかにし、公的・法的な社会空間の形成過程を考えることを目的として研究を行った。六角氏は「六角氏式目」制定以前から、恣意的な紛争裁定による積極的な「公権力」強化を企図していたが、訴訟当事者も、紛争裁定権者である六角氏による紛争裁定を期待し、権利保全のために上位権力を積極的に利用しようとする企図が伺える。このように、相互連関作用により、紛争裁定権者六角氏の「公権力」が形成され、「公〈開かれた/open〉法廷」という、ある種の公共圏的な公的・法的な社会空間が形作られたと推測できるとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症流行に伴い、当初計画していた、①戦国期畿内における紛争裁定分析の基礎的材料となる、戦国期畿内で行われた相論に関する史料の収集・調査・分析作業に著しい遅れが出て、「紛争裁定のあらゆる個別事例の検討」というところまでには至らなかった。特に史料の収集という点は、様々な制約が多く、限られた史料のみでの検討になってしまった。 また、②支配者が紛争裁定においてあえて消極的・受動的な態度を取る局面に着目し、支配者側が法的支配における曖昧性を選択するメカニズムを解明するという目標は、前述の作業が遅れたことも影響し、個別具体的な事例からの分析に留まった。 ③戦国期においてどのように「公」の権力が創出され、強化されたかについては、戦国期畿内における三好氏法廷や、畿内近国における六角氏法廷の紛争裁定など、戦国期法廷の分析作業を行ったことによって、「公権力」の形成メカニズムの一端を明らかにすることができた。 当初予定していた作業が思わぬ形で遅れてしまったので、本研究課題の進め方については、再検討を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2020年度に引き続き、①戦国期畿内における紛争裁定の分析、②支配者側の法的支配における〈曖昧性〉についての検討、③戦国期における「公」の権力についての分析、という三つの観点から研究を行う。 2020年度の成果「戦国期における紛争裁定と権力 上賀茂社領静原の新井手を巡る相論を中心に(仮題)」及び「紛争裁定から見る戦国期畿内近国の「公権力」 近江国佐々木六角氏の紛争裁定を題材に(仮題)」等を成稿した上で査読雑誌に投稿する。 なお、法制史学会近畿部会で予定されていた口頭報告は、新型コロナウイルス感染症流行の影響で順延となってしまったため、開催日時等が決まったら、報告内容を固めて口頭報告を行う。また、戦国期畿内で行われた相論に関する史料の収集・調査・分析作業を行うための、東京大学史料編纂所等への調査・研究旅行も、同じく新型コロナウイルス感染症流行の為、実行することができなかったが、調査・研究旅行は感染症流行の状況を鑑みて実施する。史料的制約が強い場合は、比較的入手しやすい活字化されている畿内の史料を中心に分析を行う。 秋には立命館大学史学会の大会報告が予定されているため、これまでの研究成果を報告し、その内容を成稿した上で査読雑誌に投稿する。
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