研究課題/領域番号 |
20J14186
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 周 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | モダンガストロノミー / 芸術 / 食文化 / 自然 / 科学技術 |
研究実績の概要 |
本年度は、第一には、これまで実施してきたフィールドワークにおいて収集したデータ整理を行った。約200万字のノートや、3000枚近い写真、100本近いビデオを見直し、細かく分類した。その際には、アウトラインソフトウェアを用いて分類法自体を新たに考案しながら行った。本研究は「料理がある形を取る過程を、ある食材の印象や、ある食材に適切な酸味、「ペルーらしい料理」などの不確定な抽象的観念がどのように規定されるか」という問いにつき、徹底的にペルーのモダンガストロノミーレストランでのフィールドワークに即して考察するものであり、そのためにはこうした細かいデータ整理は不可欠だったと考えられる。 第二には、フィールドワークを通して浮かび上がった問題関心に応じて、文献研究を行った。特に、フィールドワークの経験を自身の中に位置づける作業を並行して行っていることもあり、比較を中心とした民族誌論にかかわる人類学理論を読むことを通じて、今後の議論の基礎を作った。また、ペルーのモダンガストロノミーを織りなす糸と言える、料理、食、科学技術、芸術、グローバリゼーション、倫理、自然についての人類学的研究についての文献を読み込んだ。これらは今年度の研究の基盤として不可欠であると考えられる。特に理論、食文化の文献研究にかかわる成果の一部は、「レビュー 久保明教著『「家庭料理」という戦場――暮らしはデザインできるか?』」において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初、5月末までペルーのレストラン(ペルーモダンガストロノミーレストランAstrid y Gaston, ニッケイモダンガストロノミーレストランMaido)での文化人類学的フィールドワークを行い、その後帰国する予定であった。また、春季休暇を利用し京都の日本料理店での文化人類学的フィールドワークを行う予定だった。しかし、コロナ禍によりペルーでは2021年3月半ばに緊急事態宣言が発令され、特に緊急事態宣言の初期においてはレストランの営業や外出ができなくなったため、ペルーでのフィールドワークを中止し4月半ばに帰国せざるを得なかった。また日本料理店でのフィールドワークについても、一旦は京都の料亭である菊乃井の担当者から許可を得たものの、緊急事態宣言が再度発令されたことにより中止せざるをえなくなった。夏季休暇にはペルーを再訪する予定であったが、これも同様に不可能となった。さらに、セントラールは、2021年に東京において新店舗の開店を目指しており、申請者は日本側のアドバイザーとしてこれに関わることになっていたが、その計画も遅延している。 以上の理由により本年度は、第一に、それまで実施してきたフィールドワークで収集したデータの整理を行った。また、そのデータが予想よりはるかに多かったため、今年度は数回の学会での発表を予定していたが、それらは行うことはできず、「同時代のアートと人類学研究会」他、小規模の研究会や、ゼミなどで事例を元にした発表を行った。同時に、文献研究を深く行うことができた。以上は今年度の研究の基盤をなすと思われ、その点で総体としてはある程度研究は進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は第一に、博士論文完成に向けた執筆を進める。その過程で、博士論文をなすそれぞれの章のもととなる議論につき発表し、また雑誌論文として投稿していく。キッチンの日々の仕事についての議論を5月の日本文化人類学会にて発表するとともに、8月に日本文化人類学会誌に投稿する。11月の東京都立大学社会人類学研究会では料理の試作過程についての議論を発表し、それをブラッシュアップして超域文化科学紀要に投稿する。また、モダンガストロノミーにおけるローカルなるもの/ユニバーサルなるものについての議論を現代文化人類学会において発表する。 第二に、コロナ禍によってフィールドワークが中断し、昨年度に予定していた再度の訪問も不可能だったことから、今年度中に再びペルーのモダンガストロノミーレストランを訪問する。具体的な時期としては新型コロナウイルスのワクチン接種が済み、航空便も回復しているであろう春季休暇での訪問を予定している。そこでは以前フィールドワークを行ったレストランの関係者に対するインタビュー、ペルーのモダンガストロノミー関係書籍の収集、モダンガストロノミーレストランでの短期間の文化人類学的フィールドワークを行う。 第三に、主な調査対象のモダンガストロノミーレストランであったセントラールが東京に開店予定であるレストランについて調査する。これはそもそも2021年開店が予定されていたが、コロナ禍で延期しているものであり、とはいえ今年度中にはさらなる進展があると思われる。申請者は日本側のアドバイザーとしてこれに関わることになっている。 特に第二、第三の方策については、新型コロナウイルスの拡大状況や、ワクチン接種の進行度合いなど、様々な原因によって不可能となる可能性もあるが、その場合はオンラインでのインタビューや情報収集などでできるだけデータの不足を補うこととする。
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