再生可能エネルギー由来電力を利用した電解セルにおける二酸化炭素と水からの有用物質合成は、炭素循環社会の確立や化石資源依存からの脱却、電力負荷の平準化などに貢献しうるプロセスである。本研究ではプロトン伝導性の固体リン酸塩電解質を用い、200℃付近の中温域で作動する電解セル(SAEC)の開発に取り組んだ。中温域では反応速度と生成物選択性の両立や排熱の有効活用が見込める。 SAECの先行研究は数えるほどしかなく、実験手法の確立自体が課題であった。そこでまず、水蒸気電解の系で技術的な問題の把握・解消に取り組んだ。両極にPt/C触媒を用い、220℃にてファラデー効率80%程度での水素発生に成功した。一方で経時的なセル過電圧の増大がみられ、電解質材料のアノードへの浸出やアノード中の炭素材料の酸化などが劣化要因と判断された。検討を踏まえてアノードをPtメッシュに変更したところ、10 mA cm-2の定電流条件下で48時間にわたって安定した運転が実現した。アノード材料・構造の適切な設計によりセル劣化が抑制できることを示す成果である。 その後二酸化炭素電解試験に取り組んだ。金属粉末と酸化物粉末の混合物をカソードとし、二酸化炭素を供給して220℃で定電流を印加した。カソード出口ガス組成を分析した結果、水素と一酸化炭素に加え、メタンをはじめとする7種の炭化水素・含酸素化合物が同時に検出された。うち6化学種はこれまでSAECで二酸化炭素から合成された報告はなく、本研究が世界初の例となる。SAECを利用して多様な化学種が合成可能であることを示す画期的な成果と言える。上記の結果はプロトンが直接二酸化炭素と反応する電気化学的反応過程の存在を強く示唆するものである。反応経路の検証を行うべくin situ DRIFTS(その場拡散反射赤外分光法)測定装置を作製し、電極表面の吸着化学種を検出することにも成功した。
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