研究課題/領域番号 |
20J14291
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川合 航右 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 二次電池 / 層状酸化物 / アニオンレドックス |
研究実績の概要 |
二次電池のさらなる高エネルギー密度化を実現するため、新規電極材料の開発が求められている。本研究では、従来とは全く異なる電極反応により作動する電極材料の探索と電極反応機構の解析を行う。具体的には、酸化物イオンの酸化還元反応(酸素レドックス)を用いた正極材料の開発を行う。 本年度では、従来の酸素レドックス材料の劣化要因となっている遷移金属イオンのサイト間移動を抑制する結晶構造に着目し、O2型リチウム過剰層状酸化物の合成と電極反応機構の解析を行った。実際に、得られた正極材料は繰り返し充放電を行っても作動電圧の低下を示さず、また同時に現行のリチウムイオン電池の正極材料を超える高容量を発揮することが確認された。一方、高電位における酸化反応を起こすことで、低電位における還元反応が新たに生じることが明らかとなった。X線吸収/発光分光測定により酸化還元種を調べたところ、充放電測定で見られた不可逆な反応は、酸化物イオンの酸化還元に由来することが分かった。酸化還元前後の酸化物イオンの化学状態を明らかにするため、磁化率測定および第一原理計算を用いた解析の結果、充電後に過酸化物イオンが生成し、これが低電位で還元されることで巨大な電位ヒステリシスが生じることが示された。また、過酸化物イオンの生成機構として酸化物イオンの酸化により生じる固相内酸素ラジカルの二量化反応を仮定し、二次の反応速度式にもとづき、各酸化物イオン種の濃度の時間変化を示す理論式を導出した。加えて、電気化学測定の結果に対して理論式をフィッティングすることで、固相内酸素ラジカルの二量化反応の速度定数を決定することに初めて成功した。以上のことから、結晶構造を制御することで安定な酸素レドックス反応を示す正極材料の開発が可能になることが示された一方、酸素レドックス反応に付随して巨大な電位ヒステリシスが生じ得ることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リチウムイオン電池の高エネルギー密度化を目指す本研究において、酸化物イオンの酸化還元反応を利用した安定な正極材料の開発と、軟X線吸収/発行分光法、磁気測定および第一原理計算による反応機構解析に成功しており、研究計画がおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本成果に関する論文を学術雑誌に投稿する予定である。また、引き続き安定な酸素レドックス反応を示す正極材料の開発を進める。特に、巨大な電位ヒステリシスの原因である過酸化物イオンの生成を抑制する方法を探索する。また第一原理計算により、固相内酸素ラジカルの二量化反応の活性化障壁や、近傍の遷移金属イオンが過酸化物イオンの熱力学的安定性に与える影響を調べる。
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