研究課題/領域番号 |
20J14306
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
高橋 哲史 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 神経電気刺激 / 力覚 / 自己受容感覚 / ヒューマンインターフェース / バーチャルリアリティ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は力覚を生起させる小型な力覚提示装置の実現である.触覚再現技術は,物体の素材,大きさ,重さ等の情報を人に提示することで,ロボット義手の操作性やバーチャルリアリティ(VR)の没入感向上させることを可能とする重要な要素である.従来の力覚提示装置は,皮膚感覚をも同時に生じうる実際の力の提示をしており,装置は大型化しがちであった.本研究では,筋や腱といった深部への組織ないし神経を刺激することで自己受容感覚的な力覚を提示することを目標としている.本年度は,昨年度までに発見した手の甲上での電気刺激により,これまでに深部にあり侵襲的な刺激以外ではあまり試みられてこなかった筋肉への刺激を可能とする手法に関して人を用いた実験を行った.手の甲上の筋電気刺激は腱や腱膜を通り越しさらに深部の指の開閉と第3関節に関する屈曲を担う筋肉を刺激し屈曲させるものである. 手の甲は身体に背側に分類される部分であり,腹側に屈曲筋がある場合は多くの場合背側に基本的に伸展筋が存在することが知られているが,手には第3関節に関する伸展筋が存在せず,一定以上の電流刺激を与えることで指を第3関節に関して屈曲させることが可能であることを実験により示した.これは従来の前腕部への刺激では現在未達成な制御である.さらに従来の前腕部に存在する指の屈曲筋刺激に対して明らかに独立に指を駆動させることが可能であること,前腕部が手首の回転により筋肉と皮膚との配置を変化させ刺激電極の位置を狂わせる問題があったが,今回の手法では手腕の運動に対してロバストであることが示された.これらの結果は論文にまとめ国際学会ACM CHI 2021へ投稿し採択・Best Paper(採択率1%・受付総数2844件,内被査読件数2693件)を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は腱部の刺激を想定しての深部刺激を行っていたが,今回さらに深部に存在していた筋肉の刺激が可能であることを発見し,これを実験で示すことができた.手の甲上での電気刺激は手の甲上に電極を設置し電流を流すことで,手に位置する指の屈筋を刺激し,これまでの電気刺激手法では全く不可能であったレベルの独立性で各指の屈曲を制御することを可能とするものである.当初は手首や肘といった関節の大きい筋肉に関する実験を想定していたが,今回は手の中の小さな筋肉を各指ごとのまとまりで刺激することが可能であることを発見しまた,これまでの電気刺激による指の駆動は第二関節が必ず曲がるような運動のみを生起可能であったが,今回の手法では第三関節のみを曲げることができ,既存の技術と組み合わせることで電気刺激の可能性を大きく広げることになる.本課題の「腱直上での経皮的電気刺激による力覚提示」での深部組織の刺激に挑戦する中で,手の甲の腱上での電気刺激で腱を通り越してより深部の筋を刺激可能であることを発見した.計画上予想していなかった方向の結果ではあったが,この研究はBest Paperにも選出され,客観的にも大きな成果を出したと評価できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに可能性を見出した手の甲上での筋電気刺激に関するより詳細なパラメータ,電流刺激量にたいする応答の大きさ,応答速度などの調査,Web技術を用いたリモートでの触力覚提示への応用などの行っていく. また当初の研究計画で想定していた腱器官の刺激に関する実験を行い,感覚神経を直接刺激することの可能性の模索も今後行っていく. 運動神経と感覚神経への刺激の制御手法を分類および統合することでより高品質かつ小型な力覚提示技術の開発を目指す. もしCOVID-19の影響により依然として研究室再開が果たされない場合は,本手法のコンピュータシミュレーションを行う.生体,特に前腕の皮膚,筋肉,骨,その他の組織の電気的なインピーダンスをモデル化し,刺激パラメータにおける電流がどのように体内を流れうるかなどを可視化し,電極設置配列を含む刺激パラメータのよりよいセットを求めること目指す.また,深部を効率的に刺激する手法の開発にも力を入れる.これまでに電流パルスの高速スイッチング回路を製作し実験を行ってきた.今後はさらに電流の干渉に考慮しシミュレーションおよびこれを実験できるような回路の設計・製作を行う.これにより腱・筋を含む生体への電気刺激に関する物理的な理解を目指す
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