研究課題
同一細胞でUCP1発現誘導刺激前後のUCP1発現が評価可能な実験系として、UCP1プロモーター下流に分泌型ルシフェラーゼをノックインしたマウス鼠径部白色脂肪組織由来前駆脂肪細胞株を作出した。得られたクローン細胞株の配列解析を行ったところ、適切にノックインされた細胞の作製に成功したことが確認された。この細胞株に対して成熟脂肪細胞への分化誘導を行った後、既知のUCP1発現誘導化合物の添加を行ったところ、培養上清のルシフェラーゼ活性が有意に上昇した。さらに、同一細胞で非刺激時および刺激時の培養上清のルシフェラーゼ活性を測定することにより、UCP1発現刺激に対する応答性の評価が可能であることを示す結果も得られた。これらの結果から、作製したレポーター前駆脂肪細胞株を用いて想定している非刺激時のUCP1発現およびUCP1発現誘導刺激に対する応答性を指標とするスクリーニングが可能であることが示唆された。次にこの細胞を用いてCRISPR/Cas9ノックアウトガイドRNAライブラリーを対象とし、小規模で非刺激時のUCP1転写活性を指標とするスクリーニング方法の検討を行った。ライブラリーを導入したレポーター前駆脂肪細胞株を1サンプルあたり1000種含む細胞集団20サンプルに対して分化誘導処理を行い、非刺激時の培養上清のルシフェラーゼ活性を測定した結果、サンプルごとにルシフェラーゼ分泌量が変化し、ライブラリーの導入によりUCP1転写活性が変化していると考えられた。このサンプルの中から特に高い、あるいは低いルシフェラーゼ活性を示したサンプルについてDNA抽出し、次世代シーケンス解析を行ったところ、各サンプル中に含まれるガイドRNAの種類および比率を推測することが出来た。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は①UCP1発現を簡便に評価可能な白色脂肪細胞由来細胞株の作製および②作製した細胞株を用いたCRISPR/Cas9ノックアウトライブラリーを対象とするスクリーニングによる新規UCP1発現調節遺伝子の探索・同定 の2点を計画していた。①に関してはUCP1プロモーター下流にレポーター遺伝子として分泌型ルシフェラーゼをノックインした前駆脂肪細胞株を作製し、実際に既知のUCP1発現誘導刺激に対して応答を示す細胞株が得られたため、期待通りの成果が得られている。②に関しては、①で作製した細胞にCRISPR/Cas9ノックアウトライブラリーを導入し、スクリーニング方法の検討を行った後に、実際に小規模で非刺激時のUCP1転写活性に寄与する遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、UCP1転写活性が変化したと考えられる細胞集団が獲得され、その中に含まれるガイドRNAの種類や割合を特定することが出来た。この中から実際にUCP1転写活性に寄与する遺伝子が存在するかに関しては、現在検討中である。以上のことから、本年度の研究進捗状況としては一部不足している部分もあるが、概ね期待通りに進展していると考える。
2021年度もCRISPR/Cas9ノックアウトライブラリーを対象とする新規UCP1発現調節遺伝子のスクリーニングを軸に、UCP1発現調節機構の解明および抗肥満ターゲット分子としての機能に関する研究を行う。具体的には、2020年度に作製した、分泌型ルシフェラーゼをUCP1プロモーター下流にノックインしたマウス鼠径部白色脂肪組織由来前駆脂肪細胞株を用いてCRISPR/Cas9ノックアウトガイドRNAライブラリーを対象とする大規模スクリーニングを行い、非刺激時のUCP1発現およびβ-アドレナリン受容体刺激などUCP1発現誘導刺激への応答性の調節に寄与すると考えられる候補遺伝子を次世代シーケンスにより決定する。候補遺伝子の中で実際にノックダウンまたは強制発現などによりUCP1発現への影響が認められた遺伝子を新規UCP1発現調節遺伝子として同定する。新規遺伝子が同定された後には、UCP1発現調節メカニズムの解明や生体におけるUCP1発現および全身のエネルギー代謝への影響の評価に取り組む予定である。上記のスクリーニングによる新規UCP1発現調節遺伝子の探索を軸とし、UCP1発現調節機構の解明やUCP1発現調節を介した肥満治療の足掛かりとなる研究に取り組む。
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Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy
巻: Volume 13 ページ: 4353~4359
10.2147/DMSO.S269916