本年度中に、有機電気化学トランジスタを用いた心筋細胞電位の多点計測に成功した。この過程で、素子を培養環境中で動作させるため、有機電気化学トランジスタの表面改質と、特性のモデル化を行った。 有機電気化学トランジスタの表面は、作成プロセスで利用した犠牲層が露出することで、疎水性を呈している。一般に、細胞の付着プロセスは足場の親水性・疎水性に影響を受けることが知られている。そこで本研究では、必要な洗浄・加工・材料の選定を行い、細胞が素子上に適切にパッキングするような工夫を行った。これは、電気的な計測に欠かせない高いシーリング抵抗の実現と、培養環境への擾乱を最小化するための重要な技術である。 また、トランジスタの表面に付着した細胞は、信号源であるとともに、外界からのイオンを遮蔽する絶縁体でもある。通常のセンサでは、表面が一部覆われた場合、その部分が応答しなくなる(インピーダンスが上がる)と考えることができる。しかし、有機電気化学トランジスタのチャネルには、イオン導電性と膨潤性を持つ有機半導体が用いられており、細胞の下部もイオンが回り込むことで応答性を保つと考えられる。そこで、フォトレジストによって意図的にチャネルの一部を覆ったセンサを作成し、特性を評価した。これにより、有機電気化学トランジスタに特有の応答変化を発見した。 以上の結果を通じて、有機電気化学トランジスタマトリクス上に細胞を培養すること、その状態での実効的な特性を導くことが可能になった。フォトダイオード駆動用の回路と組み合わせることで、心筋細胞電位の多点計測に成功した。
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