本研究では、脳神経系での糖代謝制御機構を理解するため、糖代謝動態を可視化するツール開発と、アストロサイトとニューロンの共培養観察系の樹立に取り組んだ。本年度は、以下の三項目の研究成果を得た。 第一に、緑色蛍光型センサーの開発時に確立したセンサースクリーニング手法について、Methods of Molecular Biology誌にて成果報告した。分割した蛍光タンパク質と標的分子への結合ドメインの間にリンカーアミノ酸配列を設け、適切なアミノ酸数の探索・適切なアミノ酸種の探索を行う。加えて、標的分子との結合に関わるアミノ酸配列を選択することで、細胞内での濃度変化を検出しやすいセンサーへと改良することに成功した。 第二に、赤色グルコースセンサーの開発に成功し、Cell Chemical Biology誌にて成果報告した。単色蛍光型センサーを利用したライブイメージングは、異なる色の蛍光センサーと併用することで、単一細胞内で複数分子の動態を同時解析できるというメリットがある。赤色蛍光タンパク質mAppleと標的分子への結合ドメインを融合し、ドメインの間に設けたリンカーアミノ酸配列を最適化することで、標的分子の結合によって蛍光輝度が上昇する、赤色グルコースセンサーの獲得に成功した。本センサーはグルコースの濃度変化に応じた可逆的な輝度変化を示す。また、単一細胞内で緑色グルコースセンサー・緑色ピルビン酸センサー・緑色乳酸センサーとそれぞれ併用できることを示した。 第三に、昨年度に決定したアストロサイトとニューロンの共培養系での解析条件にて、脳内に存在するニューロモジュレーターによる生理的刺激下で、各細胞内でのシグナル分子動態のちがいと糖代謝動態のちがいを捉えることに成功した。脳を構成する細胞ごとの機能のちがいを反映していると考えられ、脳内のエネルギー恒常性を理解する上で重要な発見であった。
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