研究課題
半導体量子ドットは量子ビットとしての応用が期待される一方で、ナノスケールな局所電子状態のプロービングツールとしても有用である。今年度は半導体量子ドットを用いたミクロプローブ測定系の構築と改良、そして測定限界を決めるノイズメカニズムについて詳細に調べた。ミクロプローブは量子ドットを抵抗と見立てたRLC共振回路により主に構成され、計測対象の量子状態は量子ドットの抵抗変化を介して共振器から反射される高周波信号の振幅に反映される。この共振器の周波数特性や回路コンポーネントの影響が読み出し信号のノイズに反映されていることをモデル計算と実験から示した。また量子ドット中の電荷ゆらぎノイズとミクロプローブ感度との相関について詳細に調べた。得られた複数のノイズの周波数特性から、実際のミクロプローブによる実時間測定における主なノイズ源を積算時間の観点から整理し、ミクロプローブを用いた高速測定のノイズメカニズムの詳細を明らかにした。また、ノイズを低減して量子ドット中の電荷状態を調べるための信号処理手法として、これまでは時間積算による単純平均化が用いられてきた。この時間積算により状態読み出し速度が律されるため、これに代わる新たなアルゴリズムとしてベイズの定理を用いた状態推定手法を提案した。この手法により、従来の平均化手法よりもより高速に状態推定が可能であることを実証した。また、ノイズの低減には測定回路中のアンプの内因的ノイズを小さくすることが有効である。そこで低温で動作する低ノイズなパラメトリック増幅器を開発するなど、ハード・ソフトの両側面からノイズ低減に資する研究も遂行している。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた研究とは異なる方向性へ進んでいるが、本研究の根底にあるのは量子情報処理が抱える課題を解決することである。量子デバイスを活用していく上で避けることのできないノイズ問題について詳細に調べ、その解決手法をハード・ソフト的に提案した。以上のことからおおむね順調に進展していると判断する。
ノイズは応用的には邪魔者である一方で、基礎物理的には非常に興味深い事象である。1/fゆらぎノイズはデバイス中における電荷ゆらぎの情報が反映され、トンネル接合におけるショットノイズからは電子のトンネル過程を知ることができる。本年度は、これまで半導体量子ドットのノイズ研究で培った知見を以て微細磁気トンネル接合における新たな高感度ノイズ測定系の確立及び測定を行う。素子サイズや構造による依存性を通じて、電荷及び磁化由来のノイズ双方について詳細に調べ、微細磁気トンネル接合におけるノイズ物理を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
Applied Physics Express
巻: 14 ページ: 035002~035002
10.35848/1882-0786/abe41f
Applied Physics Letters
巻: 117 ページ: 202404~202404
10.1063/5.0020591