内在性ボルナウイルス様Nエレメント (EBLN) は、ボルナウイルスのN遺伝子に由来するDNA配列であり、様々な脊椎動物のゲノムに存在している。一部のEBLNは、数千万年前に生物のゲノムに組み込まれたにも関わらず、ウイルス遺伝子に由来するORFを保持している。このことから、「一部のEBLNは内在化以降に新たな機能を獲得し、宿主の進化に寄与する」という仮説が提唱されていた。本研究では、上記の仮説を検証するため、ユビナガコウモリのゲノムから同定されたEBLN (miEBLN-1) に着目して機能解析を行った。 配列解析の結果、miEBLN-1が負の自然選択圧下で進化しているORFを保持していることが明らかとなった。さらに、このmiEBLN-1 ORFは脳や腎臓など様々なコウモリ生体臓器においてタンパク質を発現していた。組み換えタンパク質や培養細胞を用いた解析の結果、miEBLN-1タンパク質はRNA結合タンパク質であり、MOV10といった他の宿主RNA結合タンパク質と相互作用していることが明らかとなった。また、miEBLN-1タンパク質はストレス顆粒を介した外環境ストレスへの応答や、LINE-1レトロトランスポゾンの抑制など様々な生理的機能を担っていることが示唆された。 miEBLN-1の由来であるボルナウイルスNタンパク質は、ウイルスゲノムに結合するRNA結合タンパク質であることが知られている。今回の結果から、miEBLN-1はボルナウイルスNタンパク質に由来するRNA結合能を様々な機能に転用することによってユビナガコウモリの適応進化に寄与してきたことが強く示唆された。よって、本研究は「ボルナウイルス由来遺伝子の宿主進化における生物学的意義」の一端を明らかにするものであると言える。
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