銀河の中心部で明るく光るコア(活動銀河核)から光速に近い速さ(相対論的速度)で噴出するプラズマ流(ジェット)において、噴出物質がどのようにして注入されているのか未だ不明である。本研究の目的は、観測されているジェットの放射構造を理論モデルを用いて再現することによって物質注入機構を明らかにすることである。 本年度は、2020年度に独自に構築した一般相対論的効果を含めたブラックホール磁気圏におけるプラズマ流の運動の近似的な解析解モデルをもとに、輻射輸送計算を行うことで、ブラックホール近傍でのジェットの放射イメージを作成した。輻射輸送計算には共同研究者である東京大学川島朋尚研究員が開発した一般相対論的多波長輻射輸送計算コードRAIKOUを用いた。 計算の結果、Event Horizon TelescopeがM87銀河中心ブラックホールの近傍約10シュバルツシルト半径で観測したリング状の放射構造が、ジェットからの放射のみでも形成されることを示された。これは、従来の解釈とは異なるものであり、ブラックホール質量の推定に影響を与える可能性がある。また、リング周辺には、特徴的な滴型の放射構造が現れることを明らかにした。これは、観測者から遠ざかるジェットによって作り出されるものであり、電波イメージからジェット速度分布を導出できる可能性を示唆するものである。ブラックホールから約40シュバルツシルト半径以遠の距離で観測されているlimb-brightened構造を再現することはできなかったが、磁気流体力学効果や時間変動の効果を組み込むことで解決できる可能性がある。 本研究により、ブラックホール近傍の物質分布と放射構造の関係性を明らかにすることができた。これはジェットの物質注入機構を明らかにするための重要な成果である。
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