研究課題/領域番号 |
20J14555
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久世 雅和 広島大学, 統合生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形現象 / 化学振動反応 / Belousov-Zhabotinsky反応 / 時空間パターン / 電圧印加 / 光照射 |
研究実績の概要 |
心臓の拍動や動物の体表模様など、リズムやパターンと呼ばれる現象がある。これらの現象が起こるメカニズムを解明する上で、多くの数理モデルが提案されてきたが、現象を実際の生物を使って観察・制御することは困難である。この問題を解決するために、現象を無生物系で再現・制御できるモデル実験系を構築することは極めて重要である。申請者は、化学振動反応であるBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応を用いた。この反応では、金属触媒が酸化・還元を自発的に繰り返す振動現象が観察でき、リズムやパターンが容易に観察できる。直径1 mm前後の陽イオン交換樹脂製ビーズに金属触媒を吸着させて作製した自律振動子(BZビーズ)は、反応溶液に浸すと多様な時空間振動パターンが発現し、空間一様な振動(global oscillations, GO)、単指向的なパルス波の伝播(traveling waves, TW)、螺旋波の伝播(spiral waves, SW)が観察できる。本研究では、電圧印加または光照射を行い、外的刺激に応答して発現する多様で複雑な時空間パターンの観察・解析、および発現メカニズムの考察を通して、自然界に広く見られる同期や履歴などに代表される非線形現象のメカニズムの解明を目指す。採用1年目は、BZビーズに電圧印加を行い、この外的刺激に応答して変化する時空間パターンを観察した。具体的には、印加電圧Eを-1.0 Vから+1.0 Vの範囲で連続的に変化させた際、電圧の走査方向に依存してGO→TWもしくはTW→GOのスイッチングが起こる電圧値が変化する「履歴現象」を観察した。また、この現象の発現メカニズムについて電気化学的に考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、BZビーズに電圧印加を行い、これらの外的刺激に応答して発現する複雑な時空間パターンを観察した。具体的には、2電極系において、印加電圧Eを-1.0 Vから+1.0 Vの範囲で連続的に変化させることによって、GO→TWもしくはTW→GOのスイッチングが起こる電圧値を観察した。 中サイズのビーズを用いた場合、Eを+1.0 Vから-1.0 Vへ走査した際(負の走査)のGO→TWのスイッチングが起こる電圧値EGTは約+0.5 Vだったのに対して、Eを-1.0 Vから+1.0 Vへ走査した際(正の走査)のTW→GOのスイッチングが起こる電圧値ETGは約-0.5 Vだった。すなわち、電圧の走査方向に依存してパターンのスイッチングが起こる電圧値が変化する「履歴現象」が発現した。一方で、小さいビーズを用いた場合では、EGTおよびETGはどちらも約-0.5 Vであり、履歴現象は見られなかった。大きいビーズでも同様に、履歴現象は発現しなかった(EGTおよびETGはどちらも約+0.5 V)。これらの結果は、十分に大きい正または負の電圧を印加したことにより、電極表面付近に抑制因子または活性因子が局在化したことに起因すると考察した。これらの結果は論文にまとめ、2021年3月にアメリカ化学会の物理化学専門誌であるThe Journal of Physical Chemistry Bに採択された。 また、BZビーズをカップリングさせた系について数値シミュレーションも行った。今回の数値シミュレーションでは、以下の条件(①活性因子の拡散の開始する点がビーズ中心の場合をGO、ビーズと容器との接触点の場合をTWとする。②反応開始に必要な活性因子の閾値を設定する。③隣接するビーズの円周上の点において、最も早く閾値に達した点を化学波の発生点とする。)で計算を行い、実験結果に類似した結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
3電極系を用い、BZビーズにパルス電圧を印加して、パルスのタイミングと印加電圧に依存する振動様相の制御を行う。具体的には、正電圧印加後に負のパルス電圧を印加した際の、正電圧印加時の周期T0と負電圧印加後の周期T1の周期比について、負のパルス電圧値、もしくはパルス電圧印加のタイミングΔtに対する依存性を評価する。また、局所的な電圧印加に応答して変化する空間パターンについても観察・解析を行う。これらの結果について、負電圧印加の際に臭素が発生することに着目し、外部刺激に応答する振動状態の変化を電気化学的に考察する。 また、光応答性を示すルテニウム錯体を用いて、光照射によって時空間パターンを制御する。ルテニウム錯体を用いたBZ反応系では、光照射によって酸化反応が抑制されることが知られている。光照射は物理的な接触なしに刺激を与えることができるため、刺激の履歴が残らない利点がある。本研究では、ルテニウム錯体を吸着させたBZビーズに、励起波長である450 nm付近の青色光を照射する。このとき、ファイバーを用いることによって、マイクロレベルで振動場を制御する。照射光の強度に依存して、振動周期が長くなる、もしくは振動そのものが停止することが想定される。申請者は、GO、TW、SWの3種類のパターンで振動するそれぞれのBZビーズに対し、光強度と照射位置をパラメータとして、局所的な光照射を行う。これにより、可逆的なパターン変調のモードスイッチングの制御が期待できる。
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