研究実績の概要 |
心臓の拍動や動物の体表模様など、リズムやパターンと呼ばれる現象がある。これらの現象が起こるメカニズムを解明する上で、多くの数理モデルが提案されてきたが、現象を実際の生物を使って観察・制御することは困難である。この問題を解決するために、現象を無生物系で再現・制御できるモデル実験系を構築することは極めて重要である。申請者は、化学振動反応であるBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応を用いた。この反応では、金属触媒が酸化・還元を自発的に繰り返す振動現象が観察でき、リズムやパターンが容易に観察できる。直径1 mm前後の陽イオン交換樹脂製ビーズに金属触媒を吸着させて作製した自律振動子(BZビーズ)は、反応溶液に浸すと多様な時空間振動パターンが発現し、空間一様な振動(global oscillations, GO)、単指向的なパルス波の伝播(traveling waves, TW)、螺旋波の伝播(spiral waves, SW)が観察できる。本研究では、BZビーズをカップリングさせた系において、複数の振動子の周期が揃う「同期現象」が発現することを見出し、従来の研究でも解析されてきた時間軸情報に加え、振動子上に現れる同期時の空間パターンの変化を観測した。また、振動反応における活性因子の拡散をもとにした数値シミュレーションも行った。以下の条件(①活性因子の拡散の開始する点がビーズ中心の場合をGO、ビーズと容器との接触点の場合をTWとする。②反応開始に必要な活性因子の閾値を設定する。③隣接するビーズの円周上の点において、最も早く閾値に達した点を化学波の発生点とする。)で計算を行い、実験結果に類似した結果を得た。これらの結果は論文にまとめ、2021年10月にイギリス王立化学会の物理化学専門誌であるPhysical Chemistry Chemical Physicsに採択された。
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