研究課題/領域番号 |
20J14567
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
今堀 大輔 京都薬科大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | がん予防 / テルペノイド / Hibiscus tiliaceus / Petasites japonicus |
研究実績の概要 |
これまでの抗遺伝毒性物質の探索研究により,フラボノイドおよび脂肪酸等の抗酸化作用やラジカル消去能を有する化合物が数多く報告されてきた事を踏まえ,上記化合物と化学構造が異なるがん予防物質として,テルペノイド類に着目した.よって本研究の目的は,植物性食品よりテルペノイド類を単離・精製し,それらの化学構造および機能性について明らかとし,さらにがん幹細胞毒性作用を評価することで,がんの発症および再発を抑制する新規医薬品シーズを見出すことである. まず初めに,植物性食品より最も構造多様性に富むと言われているテルペノイド類の単離を目的とし,エキスにおいて活性を示したオオハマボウ(Hibiscus tiliaceus) 幹および枝部やフキ(Petasites japonicus)地上部より,含有成分の探索を行った.その結果,オオハマボウ幹および枝部より,5 種の新規カジネン型セスキテルペノイドを既知化合物とともに単離し,構造決定することができた.また,フキ地上部より,6 種の新規エレモフィラン型セスキテルペノイドを既知化合物とともに単離し,構造決定することができた.新規成分の化学構造はNMR, MS および ECDスペクトルを始めとする各種物理化学的データの解析および量子化学計算により決定した.次に、得られた成分について,がん細胞毒性およびがん幹細胞毒性試験を用いた評価を行った.その結果,オオハマボウ幹および枝部より得た2種の既知成分が,がん細胞毒性試験において生細胞数を減少させることを明らかとした.さらなる解析によって,これらの活性は,がん細胞の増殖抑制および細胞死の誘導によるものである可能性が示唆された.また,フキ地上部より得た新規成分の一部は,がん細胞およびがん幹細胞に対して有意な毒性を示すことを明らかとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オオハマボウ(H. tiliaceus) 幹および枝部やフキ(P. japonicus)地上部より,含有成分の探索を行い,11種の新規成分を,hibiscone C ,syriacusin A およびeremophilenolide等の既知成分とともに単離し,その化学構造を明らかとすることができた.また,オオハマボウより得たhibiscone C およびsyriacusin AがWST-8 assayにおいて有意に生細胞数を減少させることを明らかとした.さらに,生細胞を用いた24時間タイムラプス解析により,これらの化合物の活性は,がん細胞の増殖抑制および細胞死の誘導によるものである可能性が示唆された.加えて,フキより得たpetasitesterpenes IIおよび主要成分であるeremophilenolideを始めとする種々の化合物ががん細胞およびCSC双方において生細胞数を減少させることを明らかとした. 以上の結果より,オオハマボウより得られたがん細胞毒性活性を有する化合物は抗がん剤シード化合物として有用である可能性が示唆された.また,フキより得られたCSC毒性活性を有する化合物はがんの再発および転移予防薬のシード化合物として有用である可能性が示唆された.これらのことから,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた活性成分の詳細な作用メカニズムについて解析を行う.まず初めに,ヒト神経膠芽腫由来U-251 MG 細胞およびヒト乳がん由来MDA-MB-231 細胞に対してスフィア形成法を用いたがん幹細胞(CSC)毒性試験において活性を示した成分について標的タンパクの同定を行う.よって,フキ(P. japonicus)より得られた活性を有するエレモフィラン型セスキテルペノイドについては,CSCの増殖に深く関わるとされるWnt阻害作用を,Wnt/b-catenin経路の活性化によりルシフェラーゼ遺伝子の転写が促進されるTOP-Flashルシフェラーゼアッセイにより評価する.その後,ウエスタンブロットによりWnt標的タンパクの網羅的な解析を行い,その作用メカニズムについて検討を行う.上記の手法によりCSC毒性メカニズムを解明できなかった場合,幹細胞の維持にかかわるSTAT3阻害作用等についてウエスタンブロットおよび免疫染色法により詳細な作用メカニズムの検討を行う. さらに、オオハマボウ(H. tiliaceus)より得られたがん細胞毒性活性を有する成分については、タイムラプス解析により評価した結果を既存の抗がん剤の解析結果と比較することによって、作用メカニズムの検討を行う.加えて,既存の抗がん剤と異なる機序を有する活性成分については,抗がん剤との相加相乗効果の検討を行う. 以上の研究を実施することで,がんの再発および転移を抑制する新規医薬品シーズを見出す.
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