研究課題/領域番号 |
20J14644
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 愛美 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 家 / 日常性 / 家庭性 / domesticity / モダニズム / ヘンリー・ジェイムズ |
研究実績の概要 |
本研究は、主にモダニズム期以降の合衆国南部文学とカリブ・ラテンアメリカ文学とを、両地域を包括する「アメリカス」という視点から綜合的に捉え直し、そこに一つの文学的空間を見出すことを目的として開始された。 2020年度は研究の基盤作りに重点を置き、国内での文献収集、テクスト・資料の読み込みを中心に行った。具体的には、キーワードの「日常性」と「グロテスク」を包摂するトポスとして伝統的な小説空間である「家」の表象に焦点を当て、時代・作家をやや拡大して19世紀後半から20世紀モダニズム期の英米小説における家の表象を概観し、語りや視点の実験性との相関関係の変遷を検討した。その過程でヘンリー・ジェイムズの中期以降の作品分析にも着手した。ジェイムズは初期作品から家の表象に関して意識的であり、世紀転換期にあたる中期以降の作品における語りや事物表象にはモダニスト的な実験性が見出されるなど、モダニズム文学における家表象を検討する上で重要な作家である。特に重点的に考察した『ポイントンの蒐集品』は、フェティシズムが指摘される事物表象や、異なる階級間の共感の問題など、ウィリアム・フォークナーの複数作品(『死の床に横たわりて』など)に通ずるテーマを秘めた作品といえる。 繰越期間の2021年度は、前年度の成果に基づき、日常性というテーマから家庭性(domesticity)の問題を抽出し検討するとともに、『ポイントン』の分析を継続し、論文にまとめた。本論文では、作中の印象派という要素が家庭性のはらむ問題と結びつき、女性のアイデンティティの問題を顕在化させるものとして作用していることを文化史的な背景に照らしつつ論じている。論文の執筆に想定以上の時間がかかり、目標としていた年度内の発表には至らなかったが、2022年3月末現在原稿はほぼ完成しており、5月に所属研究室紀要への投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では2020年度、2021年度にわたり北米・英国・南米での調査を予定していたが、いずれの年度においても新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により渡航を断念せざるを得ず、資料収集の面では少なからず影響があった。一方で、国内での文献収集の成果に基づき、英米の作家を中心とする広範なテクスト、ならびに関連する文化史や理論の読み込みを集中的に行い、南部文学の独自性を相対的に検討できたこと、日常性というテーマを家庭性という観点から深められたことで研究の方向性がより明確となり、全体としては次年度の海外調査や今後の研究を進める上での十分な基盤作りができた。モダニズムと家庭性の観点から、比較対象としてジェイムズの中期以降の作品を研究の俎上に載せられたことも成果の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、2021年度までの資料収集、ならびに分析・考察の成果を論文としてまとめ発表することを課題とする。具体的には、前述した『ポイントンの蒐集品』論を仕上げ発表すること、フォークナーの30年代作品に関して家庭性の観点から分析・考察を深め、年度内に論文にまとめることを目指す。ジェイムズの中期以降の作品についても、本研究のキーワードに即して引き続き検討を重ね、比較研究を行っていく。 また、前年度までに断念した海外調査を夏季に実施し、世紀転換期-モダニズム期の文化史に関する資料、カリブ・ラテンアメリカ文学に関する文献を中心に関連する資料の収集を行う。得られた資料は順次読み込みと整理を進め、前年度までのテクスト分析に反映させる形で論文にまとめ、発表することを目指す。
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