本研究では、上皮シートの基底面を支える細胞外マトリックスである基底膜がどのように形成されるのか?そのメカニズムについて、分子レベルで解明することを目指した。計画当初は上皮細胞におけるIV型コラーゲンの基底側への選択的な輸送のメカニズムについて、輸送関連因子のインタラクトーム解析により明らかにすることを予定していた。しかし昨年度までの検討から、解析に必要なIV型コラーゲン輸送を制御する実験系の確立が困難と判断された。一方、並行して行っていた基底膜形成培養系の検討では、胎児由来線維芽細胞(OUMS-36T-2細胞、以下36T-2細胞)を包埋したI型コラーゲンゲル上にヒト大腸上皮がん由来DLD-1細胞を共培養すると、DLD-1細胞の基底面に基底膜様構造が形成されることを見出した。また本共培養系では主に36T-2細胞がIV型コラーゲンを基底膜へ供給しており、DLD-1細胞からの寄与は極めて少ないことが示された。そこで計画当初の目的から方針転換し、線維芽細胞由来IV型コラーゲンの基底膜での会合機構について明らかにすることを目指した。 はじめに蛍光標識したIV型コラーゲンを安定発現する36T-2細胞を樹立し、免疫染色や生細胞イメージングにより36T-2細胞由来IV型コラーゲンの行方を追った。その結果36T-2細胞はDLD-1細胞の基底部近傍でIV型コラーゲンを供給することが明らかとなった。さらに36T-2細胞の細胞運動に関与するアクチン結合タンパク質を発現抑制すると、IV型コラーゲン量が低下した。このことから36T-2細胞の運動性が基底膜中でのIV型コラーゲンの配向に必要であることが示唆された。 上述の結果から、基底膜領域でのIV型コラーゲンの会合には上皮細胞基底部近傍での線維芽細胞の運動が必要であることが示された。以上により得られた研究成果は国際誌に投稿し、査読後修正中である。
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