本研究では、人体を取り巻く様々な温熱環境に対する温熱快適性評価や健康性評価を行うことを目的としており、2021年度は主に以下の3課題に取り組んだ。 1) 日本人若年男女の代謝量測定:昨年度実施した代謝量測定実験のデータ分析を行い、5種類のオフィス活動を模擬した被験者の測定平均値は、ISO8996の基準値と比較していずれの活動量においても有意に低いことを明らかにした。また、この違いによって日本人男女オフィス作業時の熱的中立温度の違いを予測した。この成果をまとめ、国際誌Building and Environmentに投稿し、掲載された。 2)新たな熱的快適性シミュレータ(TAT)の開発:昨年度開発した人体体温調節モデルJOS-3(周囲の温熱環境条件から人体の生理量を予測する数値モデル)の生理量予測値を用いて、温冷感を予測する数値モデルを開発した。このモデルは頭、胸、手、足などの人体各部位の温冷感を評価することが可能である。また、紫外線、可視光線、赤外線などの異なる波長帯の放射に対する皮膚の温冷感を予測する新たな数値モデルを開発した。このモデルは日射環境下における詳細な温冷感を評価することができる。これらの成果はすでに国内の学会にて発表し、国際会議(Indoor Air 2022)にて発表される予定である。 3)異なる波長帯赤外放射に対する皮膚の温熱感覚に関する調査:本年度は新たに頬部、手背部、前腕部、大腿部、下腿部の5部位を対象とした実験を行い、温熱感度の部位差を検討した。すべての部位において遠赤外放射は近赤外放射に比べ被験者の皮膚温をより高く上昇させ、より強い暑さ感や不快感を与えることが分かった。この傾向は頬部や手背部、前腕部で顕著である一方で、大腿部や下腿部においては隠微であり、温熱感の部位差を確認した。本成果は2022年度の空気調和・衛生工学会学会にて発表される予定である。
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