大規模な神経回路は、基本的な演算処理構造である回路モチーフの組み合わせにより構成されている。個々の回路モチーフは興奮性神経細胞と抑制性神経細胞から構成されており、情報の統合、分配、選別、増強、減弱などを実行する。マウスの大脳皮質一次視覚野(V1)には、投射先特異的な独立したサブネットワークが空間的に重なり合って存在することが示唆されている。そして、様々なサブネットワークの組み合わせにより、並列階層的な情報処理を行う大規模な視覚神経回路が構成されていると考えられている。サブネットワークは神経回路の情報処理に重要な基盤であるにも関わらず、生体内における構造と機能の解析はほとんど進んでいない。そこで本研究では、単一神経細胞を起点とした狂犬病ウイルストレーシング法(単一神経細胞ネットワーク標識法)を用いて、特定の高次視覚野に投射する単一神経細胞と、その細胞へ入力するシナプス前細胞群からなる投射先特異的なサブネットワークの構造と情報処理機構を明らかにすることを目的とした。 マウスの開頭手術前に内因性信号光学イメージングを行い、視覚野の領域構造を同定した後に、高次視覚野のposteromedial area(PM)にAAV2-retro-CAG-tagBFP-FLAG×3を微量注入しPM投射V1神経細胞を逆行性標識した。その蛍光標識した細胞に2光子顕微鏡下でpEF1a-TVA950をエレクトロポレーションにより導入し、EnvA-RVΔG-DsRedを微量注入し、PM投射V1単一神経細胞ネットワークを標識した。その結果、長距離投射神経細胞を組み込んだ投射先特異的な神経回路構造が観察された。投射先を限定した単一神経細胞ネットワークは、V1の多様性に富んだ単一神経細胞ネットワーク構造と比較してより均一であり、V1内に投射特異的な独自の回路モチーフが存在することが明らかとなった。
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