研究課題/領域番号 |
20J14731
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小川 基行 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞競合 / Scribble / MDCK細胞 / FGF21 / ASK1 / p38 / 物理的な力 |
研究実績の概要 |
細胞競合とは生体内で適応度の高い細胞が勝者、低い細胞が敗者となり、勝者が敗者を組織から選択的に排除する現象である。この現象は異常細胞やがんの元になる細胞を排除することで組織の恒常性を維持する重要な機構と考えられている。近年勝者細胞による敗者細胞の認識・排除機構の解析が進みつつあるが、特に哺乳類において未解明な点が多く残されている。 本研究では、哺乳類培養細胞であるMDCK細胞を用いて細胞極性制御因子Scribbleを欠損した細胞が細胞競合により排除される分子機構の解析を行なっている。これまでに、Scribble欠損細胞においてASK1-p38経路を介して発現上昇するFGF21が細胞競合を誘導することを明らかにしていた。今年度は主にFGF21による細胞競合誘導機構の解析を行なった。 ライブセルイメージング解析により、正常細胞集団とScribble欠損細胞集団を共存させたところ、正常細胞集団がScribble欠損細胞集団に向かって方向性を持って移動し、Scribble欠損細胞集団が押し込まれる様子が観察された。Scribble欠損細胞でFGF21を発現抑制すると押し込まれる程度が抑制されたことから、Scribble欠損細胞が押し込まれるのをFGF21が促進することが示された。さらに、FGF21を過剰発現する細胞を樹立して正常細胞と共培養したところ、FGF21過剰発現細胞集団が正常細胞集団を誘引する様子が観察された。すなわち、Scribble欠損細胞から分泌されるFGF21は正常細胞を誘引することで、Scribble欠損細胞が物理的に圧迫されて排除される可能性が示された。以上より、液性因子FGF21が正常細胞による物理的な力を惹起して細胞競合を誘導するという新たな細胞競合モデルを提示し、論文を発表するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FGF21による細胞競合誘導機構として、周囲の正常細胞を誘引することでScribble欠損細胞が物理的に圧迫されて排除されることを明らかにし、論文発表を行なった。従来FGF21は主に個体の代謝を活性化する因子として解析されてきたが、細胞間コミュニケーションを担うという新たな生理学的意義を示唆した。以上のことから計画が順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、特にScribbleの欠損によりASK1が活性化する分子機構について解析する。細胞競合を誘導するFGF21の発現誘導機構を詳細に明らかにすることで、細胞競合現象を人為的に操作できる可能性がある。また、正常細胞において細胞競合に関与する因子の同定を進めることで細胞競合誘導機構の全貌を明らかにする。
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