研究課題
本年度は、自己生成音知覚と運動の変化の関係における3件の研究を行った。研究1. 昨年度から行っていた実験を発展させる形で、圧センサ押しで音を生成する際、力の大きさの変化によって音の大きさ知覚がどのように変化するかを調べた。実験の結果、力の大きさの変化によって自己生成音にバイアスは確認されないが、微細な運動の制御が音の大きさの弁別に貢献する可能性が示唆された。この研究は、査読付き国際誌であるExperimental Brain Researchに掲載された。研究2. 体性感覚入力の変化がおよびそれに伴う運動の変化が自己生成音知覚に及ぼす影響を、力覚提示ロボットを用いて調べた(フランス、GIPSA-labとの共同研究)。具体的には、力覚提示ロボットを押し下げて音を生成する際に摂動を与え、摂動の大小によってどのように自己生成音知覚が変化するかを行動実験および脳波の聴覚誘発電位実験により調べた。結果、摂動の大小に関連して行動実験では被験者の聴覚知覚応答の変化を、脳波実験では聴覚誘発電位の大きさが変化する傾向を確認した。研究3.路面の変化に対する歩行の変化が自己生成音に対する聴覚誘発電位にどのように影響するかを検証した。参加者は、左右のベルトが独立して動くトレッドミル上で歩いてもらいながら、かかと接地によって生成された音を聞いた。課題中に左右のベルトの速度が変化し、参加者はそれに応じて歩行を変化させる必要があった。結果、左右のベルトの変化に応じて聴覚誘発電位が変化することが明らかになった。ヒトの歩行中において、路面の変化に適応するときに足音が通常とは異なって聞こえている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により当初の計画とは異なる研究実施となったことを考慮すると、3件の研究を実施できたことはおおむね順調に進展していると考えてよいだろう。1件目は査読付き国際誌であるExperimental Brain Researchに掲載された。2件目の研究についても一部は査読つき国際会議であるICP2020+で発表予定である。聴覚誘発電位実験については、新型コロナウイルス感染拡大の影響により予備実験にとどまったが、興味深い傾向を観察することができた。3件目については、実験と解析をおおむね完了させ、来年度の査読付き国際会議であるNCM2021で発表予定である。また、国際誌への掲載を目指し、論文を執筆中である。
上述の研究2については、聴覚誘発電位実験の本実験を行う。すでに共同研究者にデータの取得を依頼済みである。また、行動実験についても追加実験・解析を行う予定である。研究3については、追加解析の後、論文を完成させ、国際誌への掲載を目指す。また、研究1を発展させる形で運動の様式と方略の違いに着目した研究を行うことで、研究1の成果を強固にし、微細な運動における弁別への影響のメカニズムを追究する予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Experimental Brain Research
巻: 239 ページ: 1141~1149
10.1007/s00221-020-05993-7