本年度は、自己生成音の知覚における運動出力および体性感覚入力の変化の影響について、昨年度の研究1と研究2を発展させる形で、2点の研究成果があった。 研究1. 指の微細な運動により生成される音の大きさ知覚について、ピアノ演奏経験の影響を検証した結果がPLOS ONE誌に掲載された。この研究では、昨年度の研究成果で示唆された、指の微細な運動を課した音生成が音の大きさの弁別精度に影響するという効果を、このような運動と音の連関をより経験していると考えられるピアニストとそうでない非演奏家とで比較した。その結果、ピアニストと非演奏家の両群とも運動を伴うことで弁別精度の向上が示され、向上度合いについては群間で違いは観察されなかった。このことから、弁別精度の向上は、運動と音の連関経験によらない機能である可能性が示唆された。 研究2. 体性感覚入力の変化およびそれに伴う運動の変化が自己生成音の知覚および聴覚の事象関連電位(ERP)に及ぼす影響について、力覚提示ロボットを用いて調べた(フランス、GIPSA-labとの共同研究)。実験では、力覚提示ロボットを押下し音を生成する課題を実施し、その際に異なる大きさの摂動を与えた場合の音の知覚またはERPの変化を検討した。これらの実験は、当該研究者が昨年度の予備的検討に基づき実験系を構築し、共同研究者により実施された。得られたデータの解析を行った結果、ERPの研究については先行研究で多く報告されている自己生成音に対するERPの減衰が示されただけでなく、摂動の大小によるERPの振幅の変化が示された。このことから、自己生成音に対するERPの減衰は、従来考えられている聴覚処理過程の抑制だけでなく、体性感覚入力の大きさ変化およびそれに伴う運動の変化との相互作用も関連している可能性が示唆された。この成果は、論文誌に投稿準備中である。
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