本研究の目的は高脂肪食誘導性の肝癌形成に対する規則的な運動によるがん抑制効果に関して、臓器連関メディエーターとしてトリプトファン代謝産物であるキヌレニンに着目してそのメカニズムを明らかにすることである。前年度に肥満誘導性肝癌モデルマウスにおいて、運動群ではメタボローム解析にてキヌレニンの血中濃度が低下していることを見出した。また確かにキヌレニンがヒト肝細胞株、ヒト肝癌細胞株においてAhR(芳香族炭化水素受容体)のリガンドとなることを確認した。それらの結果から肥満誘導性肝癌の促進因子としてキヌレニンが作用すると考え、本年度は運動によるキヌレニンの肝臓及び骨格筋における代謝の変化を検証し、肥満誘導性肝癌モデルマウスに対するキヌレニンまたはキヌレニン阻害薬の効果を検証した。まず前年度の問題点として、肥満マウスのトレッドミルランニングでプロトコルからの脱落が多く認められたため、より低速で長時間のランニングプロトコルを検証した所、脱落は認められず、転写共役因子であるPGC1-αの有意な発現上昇を認め、肝重量、脂肪滴も減少傾向であることを確認した。しかしながら肝臓におけるトリプトファン代謝酵素(IDOs TDOs)に関しては、運動群と非運動群で発現に有意差を見出せず、骨格筋におけるキヌレニン代謝酵素(KATs)に関してもKAT3は運動群で上昇傾向にあるものの、明らかな有意差は認めなかった。この点については、今後数を増やして検討を続ける予定である。高脂肪食誘導性肥満マウスに間欠的にキヌレニンまたはその阻害薬であるCH223191を投与した所、キヌレニンの投与では肝重量の増加は認めなかったがCH223191の投与では肝重量の有意な減少を認めた。以上の結果からキヌレニンの抑制は脂肪肝の抑制に有効である可能性があり、キヌレニンの減少は運動による骨格筋での代謝が亢進することによると推測される。
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