研究課題/領域番号 |
20J14779
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平山 草太 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | クルアーン学校 / カメルーン / アラビア文字 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、カメルーンのクルアーン学校を事例に、クルアーン教育実践の詳細を記述し、クルアーン学校における「伝統」と「近代」を分かつ基準を明らかにすることである。具体的には、クルアーン教育の場面を撮影・文字起こしすることで、教師と生徒が協同してクルアーンを「読む」ための方法のパターンを抽出し、「伝統的」および「近代的」なクルアーン学校それぞれにおけるパターンの違いを検討することを目指している。 今年度は、新型コロナウイルスの影響で予定していた調査渡航が不可能となったため、既存の動画データおよび聞き取りデータの再分析とオンラインで遠隔収集した動画データの分析をおこなった。そこではとりわけ、「伝統的」クルアーン学校における、クルアーンの章句を用いたアラビア文字学習に着目し、クルアーンの音と文字が関係づけられる方法、すなわちクルアーンを「読む」ための「伝統的」方法の基本がいかなるものであるかを検討した。その結果わかったことは主に2点ある。1点目は、文字の読み方を学ぶための歌のような記憶術が存在しており、そこでは必ずしも文字と音とが1対1対応するようには結びつけられていないということである。言い換えれば、文字と音とはそれぞれ歌を介して語や節単位で結びつけられており、1文字・1音ごとには断片化されにくいということだ。2点目は、家庭学習が厳しく戒められているということである。教師の監督のもと、文字と音を結びつける「正しい」方法(≒記憶術)を学ぶことが必須であり、個々人が好き勝手に文字を知らないまま音だけを学ぶようなことは避けるべきだとされている。以上から、クルアーンの語を1文字・1音ごとに分解することを避けつつ、同時に必ずそれぞれの音を文字との「正しい」対応関係におかねばならないという、一見相反する目標を同時に達成するための「伝統的」クルアーン学習方法の一側面が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、予定していたカメルーンでの現地調査が不可能になったため、新規に動画データや聞き取りデータを収集することが困難になっている。したがって、当初予定の研究計画通りに研究を進めることはできていない。しかし、オンラインでの現地の調査協力者とのやりとりなどから、部分的にデータ収集をおこなうことができたほか、それらに基づいて既存のデータの見直しを図った結果、文字学習の方法などといった新たな論点の発掘が可能になった。また、国内において関連文献の収集と整理に専念する時間を確保できたため、研究史上の位置づけを再検討しながら本研究を進めることができた。その成果の一部は、シンポジウムや学内の研究会において発表し、それらの内容を踏まえて投稿論文の執筆にも着手している。以上から、当初予期していたあり方とは異なるものの、海外調査が不可能な現況において期待しうる程度には、おおむね順調に研究が進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、現地の調査協力者を介したオンラインでの遠隔調査をすすめ、特に「近代的」とされるクルアーン学校におけるアラビア文字学習の方法について、分析可能なデータの収集に努める。また、関連文献の収集と整理も継続することで、クルアーン学校研究史の再検討をおこない、改めて本研究の射程を広げる作業を続ける。とりわけ、膨大なクルアーン研究の蓄積を踏まえたうえで、カメルーンにおける現地語を介したアラビア文字学習の研究、延いては西アフリカのクルアーン学校の研究が、イスラームの神学的な議論とどのように接合可能であるのかを検討していく予定である。そうすることによって、クルアーン学校における「伝統」から「近代」への具体的な変化というものが、より抽象的な神学的文脈にどのように位置づけられうるのかを論じることができると考えている。
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