本研究の目的は、カメルーンのクルアーン学校におけるクルアーン読誦教育実践の詳細を記述し、クルアーン学校における「伝統」と「近代」を分かつ諸要素を明らかにすることである。具体的には、クルアーン教育の場面を撮影・分析し、教師と生徒のやりとりにおいてクルアーンを「読む」とはどういうことであるかを記述する。そうすることで、クルアーンを観察可能にする行為の連鎖の組織化方法における違いとして、クルアーン学校における「伝統」と「近代」の違いを明らかにすることであった。 実施した現地調査の実績について述べる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う渡航制限が緩和されたことにより、2022年3月からカメルーンでの現地調査を実施することができた。繰越以前の計画に従い、「伝統的」・「近代的」クルアーン学校それぞれに滞在し、教示場面の撮影と分析をおこなった。その結果、「伝統的」学校における記憶術の特徴、そして「近代的」学校における世界的ベストセラーの教科書を用いたマニュアル化された教示の特徴について、それぞれデータを収集することができた。また、クルアーン学校での教示の通時的特徴と、カメルーンにおけるクルアーン印刷本(ムスハフ)の流通状況とが関連している可能性を踏まえて、書店におけるクルアーンを含むイスラーム関連諸文献の在庫調査を実施し、全在庫のリストを作成した。これらに加えて、クルアーンを飲用するという「伝統的」学校に特徴的にみられる実践についても、観察によるデータ収集と聞き取り調査をおこなった。 上記の調査結果の発表について述べる。「伝統的」クルアーン学校における記憶術の特徴、および「近代的」クルアーン学校の教示のマニュアル化、そしてクルアーンの飲用実践に関しては学内の研究会において複数回発表した。また、イスラーム関連書籍の在庫調査については、2023年5月の日本アフリカ学会学術大会にて発表予定である。
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