研究課題/領域番号 |
20J14784
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
崔 亮秀 山口大学, 創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 電解質 / 機能性ポリマー / 配位構造 / 電極-電解質界面 / 赤外分光法 / 分子動力学法 |
研究実績の概要 |
本研究は、リチウムイオン電池部材である電解質に用いられる可燃性の有機溶媒を、より安全性の高いポリマー材料へと代替することを目的とする。特に、ポリマーを用いた電解質(ポリマー電解質)で未解明な点が多い、電極-電解質界面で起こる種々の電気化学反応の詳細な観察、及びポリマー分子が形成する局所構造の電気化学反応への影響の解明に焦点を当てている。 当該年度では、1)ポリマー局所構造の解析手法の確立、及び2)電極-電解質界面反応性とバルク局所構造の相関を検討した。 ポリマー局所構造の解析では、複数成分で構成される複雑な電極-電解質界面の前に、よりシンプルな電解質バルクで、局所構造の解析手法を確立することを目指した。報告者がこれまでに培った赤外法やラマン法などの各種分光学的手法による分子間の相互作用性に基づく構造解析に加え、計算機による分子動力学(MD)シミュレーション、及び大型放射光施設であるSPring-8を用いた高エネルギーX線全散乱法を導入することで、局所構造の3Dモデリング化に成功した。モデリング結果と実際の測定で得られた電解質の物性とを照らし合わせることで、ポリマーを構成する各分子構造因子が電解質の物性へと及ぼす寄与について、局所構造を元に明らかとした。本研究で確立した解析手法・研究成果は、今後電極-電解質界面での局所構造解析に大きく貢献することが期待できる。 電極-電解質界面での反応性の検討では、リチウムイオン電池の性能を決定づける反応としてリチウムの酸化還元反応に焦点を当てた。電極活物質に反応性の高いリチウム金属を、ポリマーに種々の分子構造因子を導入したポリマー分子構造系列を用いた検討の結果、ポリマーの局所構造を制御する分子構造因子の一部解明と、そのリチウム酸化還元反応性への影響を明らかにした。本研究結果は、今後のポリマー電解質の設計指針の一つを示す研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の年次計画においては、in situ全反射赤外分光(ATR-IR)測定法を用いた、電気化学反応中の電極-ポリマー電解質界面でのポリマー局所構造の変化の観察についても行う予定であった。しかし、新型コロナによる一時期の実験施設への立ち入り制限などの影響によって、全体的に研究が遅延し、計画していたポリマー分子構造系列を用いた比較検討を行うことができなかった。 現状は新型コロナが恒常化し、実験施設への立ち入り制限も解除されており、問題なく研究を進められる環境にある。直近の検討により、オリジナルの分光電気化学セルを用いた実験手法を確立し、電気化学反応中の電解質の赤外スペクトルの獲得に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、電極-ポリマー電解質界面で起こる種々の電気化学反応の包括的な解明と、その知見に基づく新規ポリマー分子構造の提案を目的として研究を行う。具体的には、in situ全反射赤外分光(ATR-IR)測定法を用いた電気化学反応中のポリマー局所構造の変化の観察、及び電極-電解質界面反応への寄与の解明を中心に検討を進める予定である。電極-電解質界面反応は、リチウムの酸化還元反応のみならず、リチウムイオン電池の性能へと影響しうる電解質の分解反応も研究の対象とする。 種々の電極-電解質界面反応の制御には、サイクリックボルタンメトリー(CV)を用い、その時のポリマー局所構造の変化の観察にin situ ATR-IR測定を行う。得られた赤外スペクトルを、既に局所構造解析手法を確立しているバルクでのex situ赤外スペクトルを元に解析し、界面での局所構造を明らかにする。 また、電解質の分解反応の挙動は、通常のin situ ATR-IR測定に加え、より表面敏感な表面増強IR(SEIRAS)法を組み合わせることで観察する。分解物の同定には、ex situでのX線光電子分光(XPS)測定を用いて電気化学反応後の電極表面の観察を行う。分解反応によってガス成分が生成される場合には、オンライン質量分析(MS)測定を電気化学反応と同時に行い、ガス成分の同定も試みる。これらの手法によって明らかとした種々の電極-電解質界面反応の詳細について、ポリマーの分子構造因子や観察されたポリマー局所構造と照らし合わせることで、ポリマー分子構造の寄与の明示化を行う。 最終的に、知見を通して電池性能を向上するポリマー分子構造因子が明らかとなり、分子デザイン指針を得られた場合には、それを元に新たなポリマー分子構造の提案を試みる。
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