研究課題/領域番号 |
20J14789
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松本 健太郎 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 超分子ポリマー / 自己認識 / アミノ酸 / 電荷移動錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では,アミノ酸ジアミド骨格が分子内水素結合により速度論的に形成する準安定な折りたたみ構造を利用し,分子間水素結合により形成する超分子ポリマーを高分子材料へ均質に混合させる種(たね)重合法の確立と,複合薄膜材料の開発を目的としている.また,薄膜材料の機能化に向け,複数の超分子ポリマーを段階的に複合させる種重合法の確立にも取り組む.これまで,残基のみが異なるアミノ酸ジアミド分子を複数合成し,自己集合特性について熱力学的,速度論的な評価を進めてきた.2020年度はアミノ酸ジアミド分子の自己認識特性に関して詳細な知見を得るために,二種類のジアミド分子を共存させて集合特性を評価した.自発的な超分子重合が一時的に抑制された準安定な折りたたみ状態の溶液に対して,異なるアミノ酸ジアミドの種を添加し,超分子ポリマーの形成過程を追跡した.その結果, 自己認識しながら超分子ポリマーを形成する組み合わせを見出した.また,準安定状態における二種類のジアミド分子を混合させ,対応する種溶液を段階的に添加したところ,自己認識させながら各々の超分子ポリマーを形成させることに成功した.一方,互いを区別できず,共集合しながら超分子ポリマーを形成する組み合わせも確認され,アミノ酸残基の構造が二成分系の集合挙動に摂動を与えることが示された.さらに,複合薄膜材料の創製に向けた新たな分子の合成に着手した.高分子材料との複合化において,準安定状態の速度論的な安定性を向上させ,自発的な集合化を抑制することが不可欠となる.そこで,アミノ酸誘導体のC末端とN末端に電子ドナー性π電子系と電子アクセプター性π電子系をアミド化反応にて導入した標的分子を設計,合成した.アミノ酸ジアミド部位の分子内水素結合に加え,分子内で電荷移動錯体を形成し,折りたたみ構造の速度論的な安定性が向上すると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,アミノ酸残基のみが異なるジアミド分子について, 二成分系の超分子重合過程における自己認識特性の評価に取り組んだ.ジアミド分子には,単分散状態と集合状態とで異なる波長に吸収帯を示すπ電子系分子を導入し,単分散状態に帰属される吸収帯の経時変化を追跡することで超分子ポリマーの形成過程を評価した.まず,加熱処理により二種類のジアミド分子を低極性溶媒に溶解させて293 Kに急冷したところ,自己集合が一時的に抑制された誘導期を確認した.得られた単分散状態の混合溶液に,一方のジアミド分子の種溶液を超音波処理により調製して添加したところ,単分散状態の消費に伴う吸光度変化が観測され,超分子ポリマー化が開始されることがわかった.観測された吸光度変化は,一成分系で種重合を行った時と同程度であり,添加した種と同種のジアミド分子が優先的に相互作用したことが示唆された.そこで,超分子重合による吸光度変化が飽和した溶液に対し,もう一方の種を添加したところ吸光度が大きく減少し,残りのジアミド分子の超分子ポリマー化が進行することを確認した.以上の結果から,二成分系において段階的に種重合できることを明らかにした.続いて,二種類のジアミド分子の間に働く相互作用について知見を得るため,各ジアミド分子の準安定な単分散状態の溶液と種溶液を調製し,組み合わせを変えて種重合を行った.加熱冷却処理により調製した準安定な単分散状態の溶液に異なるジアミド分子の種溶液を添加し,吸光度変化を追跡したところ,自己認識する組み合わせの他に,共集合しながら超分子ポリマーを形成する組み合わせを見出した.すなわち,アミノ酸残基の構造が二成分系の自己認識・共集合挙動に摂動を与えることを明らかにした.現在,得られた結果の再現性を確認しつつ,論文の執筆を進めている段階であり,順調に研究を前進させていると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,電荷移動相互作用を形成する電子ドナー性分子と電子アクセプター性分子をアミノ酸のC末端とN末端に導入したジアミド分子について,低極性溶媒中におけるフォールディング特性と自己集合特性を評価する.単分散状態では,分子内水素結合および電荷移動錯体により折りたたみ構造を形成すると考えられ,各種スペクトル測定と量子化学計算により知見を得る.高濃度条件下においては分子間相互作用により集合体の形成が期待され,その構造と光物性について種々の顕微鏡観察やスペクトル測定により評価する.また,集合体の形成機構について,熱力学的,速度論的な評価を進め,電荷移動相互作用が集合挙動に及ぼす効果について明らかにする.さらに,超音波処理により調製した種を添加することで超分子重合を開始できるか時間依存スペクトル測定により確認する. 次に,フォールディング特性と集合特性に関する基礎的な知見を活かし,超分子ポリマーと高分子の均一な複合化を試みる.具体的には,低極性溶媒にジアミド分子と高分子を溶解させ,種重合を行うことにより超分子ポリマーと高分子を混合させた複合薄膜材料を作製する.続いて,種重合を利用して,二種類の超分子ポリマーを段階的に高分子と複合させる手法を確立する.この実現に向けて,異なるアミノ酸残基を持つジアミド分子を新たに合成し,低極性溶媒中における集合特性を評価する.次いで,二種類のジアミド分子と高分子を溶解させ,各々の種溶液を添加して段階的な種重合を行う.複合体中における超分子ポリマーの分布について知見を得るため,超分子ポリマーに発光色素を修飾し,蛍光イメージングにより可視化する.また,超分子ポリマーの長さや,高分子の分子量や濃度を変化させ,得られる複合体について各超分子ポリマーの分布を評価する.超分子ポリマーと高分子を均一に複合させる最適な条件を明らかにし,多成分複合薄膜材を創製する.
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