本研究では,アミノ酸ジアミド骨格の分子内水素結合により形成する準安定な折りたたみ構造を利用し,分子間水素結合により形成する超分子ポリマーを他材料へ均質に複合化させる種(たね)重合法の確立と,それを基にした複合薄膜材料の創製を目的としている.これまで,異なるアミノ酸残基を有するアミノ酸ジアミド誘導体を混合させ,二成分系の種重合過程における自己認識・共集合挙動について,熱力学的,速度論的な評価を進めてきた.2021年度は,電子豊富なドナー性π共役分子と電子アクセプター性π共役分子をそれぞれアミノ酸のC末端とN末端に導入したアミノ酸ジアミド誘導体について,低極性溶媒中における自己集合特性を評価した.その結果,低濃度条件下では単分散状態の吸収スペクトルが観測されたのに対し,濃度を高くすると吸収スペクトルが変化し,π共役部位が分子間で相互作用することがわかった.得られた高濃度溶液中において,超分子ポリマーの形成を透過型電子顕微鏡により確認した.超分子ポリマーの形成機構について知見を得るために,単分散状態から超分子ポリマーが形成する過程を追跡したところ,超分子ポリマーとは異なる発光特性と円二色性を示す粒子状集合体が形成することを見出した.時間依存吸収スペクトル測定により粒子状集合体の安定性を評価した結果,時間の経過とともに超分子ポリマーへ転移したことから,粒子状集合体は準安定状態であると考えられる.さらに,超音波処理により短い超分子ポリマー(種)を調製し,粒子状集合体の溶液に添加すると,直ちに超分子重合が開始されることを確認した. 分子内水素結合を形成するアミノ酸ジアミド骨格と,電子ドナー・アクセプター性π共役分子骨格を組み合わせることにより,種重合に有用な準安定な状態が発現することを明らかにした.
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