研究実績の概要 |
1)これまでの研究によって、ケンサキイカの生活史特性は海域ごと・孵化季節ごとに異なり、対馬と台湾の個体群は交流している可能性が示唆された。得られた研究成果を投稿論文として発表することができた。
2)日本と台湾のケンサキイカ個体群において、生活史特性(外套長・体重・外套重量・生殖腺重量・成熟度、成熟雄は繁殖戦術、成熟雌は孕卵数と卵径サイズ分布)の調査は、2017年5月より2020年8月までの3年半継続して実施した。これにより得た成熟雌の繋殖特性のデータを海域・季節で比較し、異なる環境条件が雌の繋殖特性に与える影響を明らかにした。ケンサキイカでは、産卵期の水温が高いほど孕卵数は少なく、平均卵母細胞サイズは大きくなることが分かった。長期的資源量変動解析でみられた日本のケンサキイカ資源量が温暖期に減少することの生物学的なメカニズムは、成熟雌の孕卵数が低くなったためと考えられた。
3)計420個体の平衡石を用いて、日齢を調べた後に、レーザーアブレーションICP-MSによる微量元素組成のファインスケール分析を行った。カルシウム(Ca)とともに、ストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)などの8種類の微量元素を測定した。海洋生物の硬組織のストロンチウム(Sr)は経験水温と負の相関を示すことが知られているが、ケンサキイカの平衡石縁辺のSr/Caでは採集時の水温と負の相関が見られ(r = -0.462, p < 0.0001, Pearson’s)、Mg/Caでは水温と正の相関が見られた(r = 0.398, p < 0.0001, Pearson’s)。また、同じ時期に孵化し、同じ場所で採れた個体であっても、平衡石の中心から縁辺までのSr/Caの変化は個体により大きく異なるパターンがみられた。
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