今年度は人工心臓の動作条件に合わせた設計方針に基づき,血しょう・赤血球分離効率90%以上に達成できる優れた分離効果と羽根付き回転子を浮上させる十分な動圧浮上性能を両立できる溝形状の最適設計と応用を目的として,以下の内容を取り組んだ. まず,人工心臓の動作条件における動圧軸受内の血液の流れ方向を計測するために,人工心臓と相当な流量・揚程性能を有する模擬装置を設計・試作した.人工心臓模擬装置の中で羽根付き回転子を上下に設置された二つの動圧軸受によって軸方向に浮上させた.試作した装置内で血液を循環させ,流量 5 L/min,ギャップサイズ20 μmの条件で装置内における動圧軸受の流体隙間を撮影し,血液の流れ方向を計測した. 次に,優れた分離効果と十分な動圧浮上性能を両立できる最適な溝形状を目指し,最適設計問題を定式化するための溝形状の設計変数,制約条件,目的関数を定義し,最適な溝形状を逐次に探索した.確立した設計方針により,溝形状の設計変数を各設計点と計測した血液の流れに対する角度変化量とした.制約条件については昨年度の実験で調べた優れた分離効果を得られる角度変化量により決められた.目的関数は正規化された角度変化量と数値流体解析で求めた動圧浮上力により構造された.なお,最適設計手法として遺伝的アルゴリズムが利用され,最適な溝形状が生成された. その後,実験で分離効果と動圧浮上性能を確認するために,最適な溝形状の有する動圧軸受を試作し,人工心臓模擬装置に実装した.動圧軸受内の分離効果を定量的に評価した結果,本研究で設計した最適動圧軸受の分離効率は95%までに向上された.なお,流体隙間のギャップサイズを計測した結果,設計した動圧軸受は20 μmの条件で羽根付き回転子を浮上させることを確認した.以上の結果によって,設計した動圧軸受は優れた分離効果と十分な動圧浮上性能を得たことを検証できた.
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