本年度は昨年度に得たデータ解析を中心に行った。昨年度に胎齢9.5日、10.0日、10.5日、11.5日の耳胞をサンプルに、内耳上皮・間葉系細胞・神経芽細胞のscRNA-seqのデータを得たが、主に蝸牛・前庭の発生に最も関わると思われる上皮細胞を中心に解析を行なった。scVeloというソフトを用いて細胞の分化過程を予測する解析を行い、上皮細胞の中でも最も未熟な上皮細胞の集団が胎齢9.5日のデータセットにあることを確認した。一方で、一般的に胎齢9.5日の時点では上皮細胞の分類はあまり行われてきていないが、胎齢9.5日のデータセットの中にもそれぞれ蝸牛・前庭に類似した細胞集団があり、胎齢9.5日の頃から分化は進みつつあることが示唆された。昨年度に行った公開データを用いた解析よりも多くの遺伝子を検出することができたため、蝸牛や前庭のマーカー遺伝子候補に関してもより多くのものを検出することができた。一方で、本来行う予定であった蝸牛・前庭の運命決定の分岐点に着目した研究という観点からは、明確な分岐点といえるものが検出することができなかった。この原因としては、そもそも明確な分岐点というものはなく、蝸牛と前庭の境界となるようなトランスクリプトームを持った細胞集団が存在する可能性や、用いた細胞単離プロトコルの単離が甘かったために、多くのDoubletが混入してしまった可能性が考えられる。今後は、蝸牛と前庭の境界領域に含まれる細胞のマーカー遺伝子の発現を実際の組織で確認することで、Doubletによる細胞集団が形成されたことを否定する必要がある。
|