研究課題/領域番号 |
20J14853
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
中山 陽介 國學院大學, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 平仮名 / 仮名文字 / 万葉仮名 / 真仮名 / 仮名書道 / 文字史 |
研究実績の概要 |
本年度は、次の二件の成果を得た。 (一)論文「平仮名の字母の体系化」(『国語研究』84、令和3年2月)では、真仮名(万葉仮名)と平仮名との間に直接的な体系の連続性が無いことを論じた。奈良時代の真仮名から平安時代中期の平仮名までの字母の使用状況を追いかけると、両者は、使用字母の時代的変遷による違いとは言いがたい体系的な隔絶があることを指摘する。そして、平仮名が成立するためには、字母の体系化、すなわち、使用字母の種類が限定されその読み方が固定されることで、漢字から独立した仮名文字の体系となることが基盤になると論じた上で、その体系化が、平仮名成立以前の九世紀後半には実現しており、一方で、奈良時代の木簡などの真仮名ではまだその傾向が無いことを明らかにした。奈良時代の真仮名は、頻用される字母というものはあったが、漢字としての意識が強くそこから独自の表音文字が独立する契機を持っていなかった。平仮名の発生基盤を考える上での重要な問題点を提示したものである。 (二)論文「平仮名の筆画の円転化」(『若木書法』20、令和3年2月)では、独特の表音文字としての仮名文字が発生してから平仮名が確立するまでに、平仮名独特の丸みを持った筆画がどのように獲得されたかの過程を解明した。漢字の筆画は、草書であっても角張った性質の線であるが、平仮名ではそれが変化して、「の」の字に代表されるように丸い線が筆画の主体となった。この変化は、平仮名独特の字形が成長する過程と連動しており、その確立が十世紀初頭から中頃にかけて認められることを指摘し、併せて、この筆画の変化によって、それまでの、草書の変形に過ぎなかった仮名の形態が、仮名書法と呼びうるような独特の文字構造を獲得し、文字としての平仮名の確立の画期となったことを論じた。従来不明瞭であった平仮名成立の判断基準を、明確な形で提示したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で掲げる、平仮名の成立を論じるための判断基準となる三つの観点「字形の簡略化」(漢字を簡略化した字形の獲得)「筆画の円転化」(丸みを帯びた筆画の獲得)「連綿の定式化」(仮名独自の性質を持った続け書き書法の獲得)のうち、「筆画の円転化」の詳細を論じたことで、平仮名の成立のための条件や時期をより詳しく明らかにすることができた。また、真仮名から平仮名の間に見られる不連続性を指摘し、その問題点の解決には至っていないものの、今後の研究課題の方針を示した。順調に次年度につながる成果を出しえたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平仮名の三特徴のうちの「字形の簡略化」については、以前も論じた所があるが、これまでの「連綿の定式化」と「筆画の円転化」の検討の成果を踏まえて今一度詳述し、平仮名の完成段階の実態の解明のしあげを行いたい。 また、平仮名の成立基盤となる仮名文字の発生過程について、本年度の研究実績(一)で論じたような真仮名から仮名文字・平仮名への不連続性の問題が明らかになったため、それについての研究を深めていく。特に、平仮名の字源となった草書の受容過程について詳しく論じ、平仮名成立への影響を考える。
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