光学シースルー頭部搭載型ディスプレイ(OST-HMD)において、眼に入る光線を直接計測・変調することにより、現実と視覚的に不可分なバーチャル物体の質感を再現する研究において、今年度は下記の進捗があった。 「視覚特性の推定」:前年度成果である「拡散ホログラフィック波面センサ(DWFS)による視力推定手法を統合した網膜走査型OST-HMD」について、拡張現実感(AR)への応用に向けたシステムの小型化およびリアルタイム化を行った。小型化については、視力推定と映像提示の両方をウェアラブル端末上に実装するための構成を提案した。リアルタイム化については、DWFSにより取得する波面画像から、高速に視力を測定するための深層学習モデルを構築した。 「幅広い光学特性を再現可能なOST-HMD」;前年度成果である、位相空間光変調器(PSLM)を用いて、連続・曲面のAR物体に対して奥行きブラーを提示する「焦点面光学遮蔽OST-HMD」に関する評価と改良を行った。提案法が再現できる奥行きブラーとシミュレーションとの空間周波数特性の比較を行い、結果は光学分野の主要国際論文誌であるOptics Expressに採録された。また、「視覚特性の推定」で計測したユーザの視力を補償するパターンを位相画像に畳み込み、バーチャル物体の奥行き表現を改善しながら現実の見え方を同時に補償する手法の検討を行った。 本研究は、眼光学的計測に基づく眼のピント推定と、光線の直接変調に基づく高コントラスト・広色域・ピント調節可能なOST-HMDを提案し、OST-HMDにおける視覚的質感再現の幅を広げた。今後は、AR応用に向けた現行システムのリアルタイム化を中心に検討を進めていく。
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