研究課題/領域番号 |
20J15083
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
末田 梨沙 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / ニューロン新生 / 成体脳 / 転写因子 / Ascl1 |
研究実績の概要 |
成体脳神経幹細胞は多くが休眠状態にあるが、ごく稀に増殖や分化を行い、新しくニューロンを新生する。Ascl1は休眠状態では発現抑制されており、活性化状態において振動発現し増殖・ニューロン分化を促進することが知られている。これまでにレンチウイルスを用いてAscl1とコファクターであるE47の発現を休眠神経幹細胞に導入し活性化が誘導されたが、すぐにニューロンに分化し幹細胞プールが維持されなかった。 本研究では、Ascl1の発現をmRNAレベル、タンパク質レベルで不安定化させることで、成体神経幹細胞の増殖性を長期誘導することを目的とした。Ascl1-E47の下流にAscl1の3’UTRとタンパク質分解配列であるCL1,PEST配列を付加し、発光レポーターによりAscl1の発現動態を可視化した。Hes5プロモーターを用いて不安定化したAscl1の発現を培養神経幹細胞に誘導したところ、活性化状態にみられるAscl1の発現振動パターンを再現できた。 次に、不安定化したAscl1、またはAscl1を含まないコントロールのレンチウイルスを作製し12カ月令のマウス海馬領域に注入してin vivoでの作用を1カ月後に観察した。細胞の増殖率は、不安定化Ascl1を導入した細胞ではネガティブコントロールに比べ約3.5倍の上昇したものの、多くは休眠神経幹細胞のままとどまっていた。今回付加した配列によって不安定化されたAscl1の発現量は、成体脳に存在する休眠神経幹細胞を活性化させる十分なレベルに達しなかったと考えられる。 また、成体脳海馬領域のAscl1の発現をライブイメージングで解析したところ、神経幹細胞だけでなくオリゴデンドロサイト前駆細胞でもAscl1は特殊な発現動態をもつことを見出した。現在Ascl1の発現や機能を神経前駆細胞の系譜と比較して解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海馬領域の細胞を対象としたAscl1発現解析から、オリゴデンドロサイトの前駆細胞でもAscl1の発現が振動するという新たな知見が得られた。Ascl1の特殊な発現動態は神経幹細胞だけでなく、そのほかの細胞の増殖性維持にも関わる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
Ascl1以外にも、成体脳神経幹細胞を効率的に活性化させる遺伝子が新規に見つかっている。この遺伝子を成体神経幹細胞において時期特異的に発現誘導できるトランスジェニックマウスを作出し、海馬歯状回、側脳室周囲、第三脳室周囲に存在する幹細胞に着目して増殖の亢進およびニューロン新生を解析する予定である。
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