炭化ケイ素(4H-SiC)中の単一光子源(SPS)をもちいて量子センシングを実現するために、界面SPSと呼ばれるMOS界面に発生するSPSを光学的に評価してきたが、界面SPSはMOSFETのゲート電圧に依存して発光強度を変化させるものの依然起源がわからず電子スピンの有無も判明しなかった。そこで、バルクではスピン制御も実証されているSPSとして知られるシリコン空孔(VSi)を、陽子線照射によってMOS界面に作り出すことで界面SPSと同様の系で量子センシング実現を目指した。通常、VSiの電子スピン検出には光検出磁気共鳴(ODMR)という、電子スピン共鳴(ESR)をVSiの発光強度の変化を用いて検出する手法が用いられているが、本研究ではデバイス中にVSiが発生している利点を生かすべく、電流検出磁気共鳴(EDMR)という手法での検出を試みた。VSiのESR信号は2種類あり、それらは空孔ができる格子点位置(hサイト/kサイト)の違いによって分けられている。このうちkサイトのVSiのESR信号をTV2aセンターと呼び、VSiを用いた先行研究ではTV2aセンターを対象にODMRを用いて研究が行われていた。しかし、EDMRの場合、hサイト型の検出例はあるものの、TV2aセンターの検出例がなかった。 本研究では、4H-SiC MOSFETを用いてTV2aセンターのEDMRによる電気信号での検出に成功した。さらにTV2aセンター信号強度がゲート電圧に依存して変化し、-3Vから1Vの間で最大値をとることを確認した。また、CV測定を実施しMOS界面のフェルミ準位を算出したところ、ちょうど前述のゲート電圧帯付近でVSiの荷電状態が負に変化していることがわかった。以上のことから、VSiの荷電状態をMOSFETのゲート電圧によって制御できることが示唆された。
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