褐色腐朽菌は、その多くが針葉樹に対して高い腐朽能を有すると考えられているため、木造住宅の構造材として主に針葉樹材を利用している我が国において、最も注意すべき生物種である。したがって、褐色腐朽菌による木材分解機構を理解することは重要な課題である。 褐色腐朽菌は、木材細胞壁中のリグニンを完全に低分子化することなくヘミセルロースおよびセルロースを完全に分解する。本菌は、リグニンに如何なる作用も示さないわけではなく、メトキシ基の脱離や側鎖α位の酸化、β-O-4結合の開裂などの構造変化を引き起こすことが報告されている。また、比較ゲノム解析により、一部の例外を除き、多くの褐色腐朽菌が、ゲノム上でリグニン分解に関与するクラスIIヘムペルオキシダーゼを欠損しているのみならず、結晶性セルロース分解を担うセロビオヒドロラーゼについても欠損していることが明らかとなった。これらのことから、現在、褐色腐朽機構における非酵素的な錯体介在フェントン(CMF)反応の関与が広く受け入れられている。一般的なフェントン反応は、二価鉄イオンと過酸化水素からヒドロキシルラジカルを生じる反応であり、褐色腐朽では、シュウ酸と鉄還元性の化合物がこの反応系に関与すると考えられている。CMF反応に重要な物質のうち、鉄イオンは木材中に存在する三価鉄を、過酸化水素とシュウ酸は菌が生産するものを利用するとされているが、鉄還元性の化合物については、様々なものが提案されてきた。その候補として、菌が生産するカテコール類やキノン類、リグニン由来の化合物に加えて高分子体のリグニンも鉄還元能を有することが報告された。このことから、褐色腐朽菌が木材主要成分を改質し、鉄還元剤として利用している可能性がうかがえる。 そこで本年度は、種々の木材腐朽菌で腐朽させた木材の鉄還元能を、反応液のpHや試料の粒度が異なる6つの試験区で調査した。
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