初年度は光によるキャリア注入に着目し、光キャリア生成メカニズムの解明手法の構築を目的にラジカル置換基が2個結合したペンタセン-ラジカル連結系とラジカル置換基を持たないペンタセン誘導体であるTIPS-ペンタセンの薄膜の光電流測定と電気的検出磁気共鳴(EDMR)測定とその温度変化測定を行った。 TIPS-ペンタセンの薄膜は明瞭な光電流が観測されたが、ペンタセン-ラジカル連結系ではほとんど観測されなかった。ペンタセン-ラジカル連結系はラジカル置換基を持たないペンタセン誘導体に比べて励起状態の寿命がおよそ1000倍以上短いため、キャリアを生成する前に基底状態に失活したと考えられる。 ペンタセン-ラジカル連結系は光電流のEDMR信号が得られなかったが、TIPS-ペンタセン薄膜ではESR共鳴条件で光電流が減少するEDMR信号が得られた。この信号は励起状態から電子と正孔に分かれて電荷キャリアを生成する中間状態である弱く相互作用した電子正孔対に由来するものだと考えられる。 TIPS-ペンタセンの薄膜を用いてキャリアダイナミクスの詳細を明らかにすることを目的に光電流とEDMRの温度変化測定を行った。光電流の信号強度は低温から高温にかけて指数関数的に増加した。一方、光電流のEDMRの温度変化測定では、EDMRの信号強度は温度に対して線形に変化せず、200 K付近で変化量が最大となった。励起状態から電子正孔対が自発的に生成し、電子正孔対から電荷キャリアの生成が熱活性であると仮定したダイナミクスを考慮した速度方程式から得られた解析解とStochastic-Liouville方程式による数値計算によって温度依存性のシミュレーションを行った。光電流の温度変化測定から見積もった電子正孔対から電荷キャリア生成過程における活性化エネルギーを用いることで、光電流のEDMRの温度依存性をよく再現することに成功した。
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