研究課題
本研究では、申請者らがこれまで国内の疫学研究で主に示してきた、Cnm陽性ミュータンス菌口内保有と脳内出血との関連を、基礎研究・国際共同疫学研究の両者にて研究を進めることで、普遍的な病態を解明することを目的とし研究を行った。脳卒中易発症性自然高血圧ラットを用いたCnm陽性ミュータンス菌経静脈投与モデルの検討において、同細菌株が脳毛細血管壁に沿って分布し投与直後より血管周囲のミクログリア活性を亢進していることを明らかにした。そのため本年度(初年度)は、ヒト脳毛細血管内皮細胞を用いてin vitro実験にてCnm陽性ミュータンス菌臨床株を用いて感染・浸潤実験を行い同細菌の細胞内寄生の有無および血管内皮細胞内での局在を調査した。結果、Cnm陽性ミュータンス菌では一定の割合で、脳血管内皮細胞内寄生が確認され、免疫染色にて細菌がエンドソームに取り込まれるように局在することが分かった。血液脳関門への影響指標となる経上皮電気抵抗(TEER)測定では早期の段階(8時間)では影響は認めなかった。感染細胞上清を用いHTP1を賦活した系では、HTP1が活性化マクロファージ様に形態変化し、メタロプロテアーゼ(MMP)9の活性が上昇することが明らかンなった。さらに、齲蝕モデルラット作成のため予備的に広域スペクトラム抗生剤による無菌化ラットを作成し、理学的所見に加え病理学的変化の評価・解析を行った。疫学研究に関しては、コロナ禍の影響をうけ、サンプルの解析はシンガポール国立大学より得た認知症患者30症例にとどまった。
2: おおむね順調に進展している
基礎研究においては、当初の目標通り、ヒト脳毛細血管内皮細胞を用いた感染実験を行い、齲蝕モデルラット作成に向けた予備実験を進めてきた。国際研究に関しては、コロナ禍の影響があり、共同研究機関での協力が得られず登録数が見込みよりも伸び悩んだが、国際法批准に向けた取り組みを継続し、研究再開の見込みがたったことから、概ね順調に進んでいるものと判断した。
In vitro研究に関しては、宿主側となるヒト脳毛細血管内皮細胞での分子機構を調査するため、感染モデル系におけるRNA seq解析を行い、炎症メディエータの活性と比較をしつつCnm陽性ミュータンス菌が細胞内に寄生することにより、細胞の防御機構にどのような影響が出るかを探索的に評価する。さらに、BBBモデルを、一つのcell lineによる系から、複数のcell lineを用いた系に変更することで、細菌ー細胞間の反応から、細菌を介した細胞ー細胞間の働きを観察する研究に発展させる。動物モデルに関しては、ヒトの細菌叢移植を行う実験系がBSL2に相当するため、主に研究を行う国立循環器病研究センター研究所における動物管理委員会での承認をうけ、各種アイソレータ等の整備を進めている。国際研究に関しては、ヒト口内サンプルを市販のキットを用いて、死菌・固定した状態に加工し、国際輸送を行うことで、コロナ流行後の感染性試料の輸送に関する倫理的な問題をクリアする必要がある。国際法に関しては、継続して情報収集を行い、生物多様性条約に批准する点に留意しつつ研究を進めていく。
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