研究課題/領域番号 |
20J15264
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研究機関 | 畿央大学 |
研究代表者 |
宮脇 裕 畿央大学, 健康科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 運動主体感 / 脳卒中 / 運動障害 / 知覚的手がかり / 認知的手がかり |
研究実績の概要 |
自分が運動を制御しているという感覚は運動主体感と呼ばれ、思い通りに身体を動かすことや、新たな運動を学習する上で重要な役割を果たすことが知られている。運動主体感を得るためには、運動に伴う感覚などの知覚的手がかりや、思考や知識などの認知的手がかりが利用されるが、運動障害を有する脳卒中患者がこれらの手がかりをどのように利用して運動主体感を得ているのかは明らかでない。この運動主体感を得るための戦略と運動障害の関係性が明らかになれば、運動障害を改善させるための新たな治療開発へと繋がることが期待できる。本研究は、脳卒中患者が運動中にどのように運動主体感を得ているのか検証し、その戦略と運動障害の関係性を明らかにすることを目指している。 初年度は、病院などの研究協力機関に装置を設置するなど、研究環境の整備を行った上で、脳卒中患者を対象に2つの臨床研究を遂行した。研究1の結果から、健常者や運動障害がごく軽度の患者は、運動に伴う感覚などの知覚的手がかりに基づいて運動主体感を得ている一方で、運動障害が強い患者は、思考や知識などの認知的手がかりを利用して運動主体感を得ている可能性が示された。 この戦略の変容と運動障害の回復過程との関係性を精査するために、研究2では脳卒中患者2名を対象に、脳卒中発症後2週目、4週目、8週目の3地点でデータを測定した。その結果、運動障害が強い患者では、脳卒中発症後4週目から戦略変容を認めたが、この変容は運動障害の回復に伴い改善した。一方で、運動障害がごく軽度の患者では、全地点で変化を認めなかった。これらの結果から、重度の運動障害は運動主体感を得るための戦略を変容させる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度では、すでに完了済みであった健常者を対象とする研究の成果を論文化し、その論文は国際学術誌に掲載された。脳卒中患者を対象とする研究についても、縦断研究を含む2つの臨床研究を完了し、国際学術誌にその成果が掲載されている。この縦断研究は対象者が2名ではあるが、今後、多くの症例を対象に縦断研究を進める前段階として、データ収集のノウハウを蓄積することに貢献した。さらに、臨床現場でも簡便に運動主体感に関する評価を行えるようにするために、脳卒中患者専用の質問紙の作成に着手した。この質問紙の作成が実現すれば、データ測定を行う臨床スタッフはもちろん、患者の負担を大幅に軽減することができ、これまで以上に多くのデータを収集できるようになることが期待できる。現在は、質問紙の試作版を作成した段階である。これらのように、順調に研究成果を挙げており、さらなる研究計画の発展も伴うことから、初年度の進捗は「当初の計画以上に進展している」区分に該当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
運動障害と運動主体感の関係性を明らかにするために、2名の脳卒中患者を対象に実施した縦断研究について、今後は症例数を増やしていく予定である。初年度の研究から、研究協力機関との間でデータ収集のノウハウを蓄積できたため、運動障害を評価するための臨床評価尺度も拡充させた上で研究を推進する。これに並行して、新たに着手した質問紙についても、作成に向けてデータ収集を開始する予定である。
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