一軸異方性を有した反強磁性体では、磁化容易軸と平行に外部磁場を印加したとき、外部磁場に対して二つの磁化が右回りと左回り、異なる回転方向に歳差運動する二つの共鳴モードが存在する。これら二つの共鳴モードが存在することで、偏光と呼ばれる、スピン波の磁化の歳差運動の軌道の制御が可能となる。本研究では、一軸異方性を有した人工反強磁性垂直磁化膜におけるスピン波の磁気共鳴を調査した。コバルト/ニッケル多層膜と薄いルテニウム層を用いて人工反強磁性垂直磁化膜をスパッタ製膜し、製膜した人工反強磁性垂直磁化膜を、細線に加工、及び、絶縁層の製膜と、細線上にスピン波を励起するアンテナを作製した。加工した素子の面直方向に一定の外部磁場を印加し、反射波測定行うことで、アンテナが励起するスピン波の磁気共鳴を調査した。その結果、二つの磁化が反平行になる磁場範囲において、二つの共鳴ピークが観測された。これら二つのピークは、右回りと左回りの共鳴モードに対応しており、本研究結果は、人工反強磁性垂直磁化膜を用いて、スピン波の偏光制御が可能であることを示している。 また、鉄コバルトボロンとルテニウム層から成る、強磁性/非磁性/強磁性三層膜を用いて、アンテナ間を伝播するスピン波を伝送波測定によって調査し、人工反強磁性面内磁化膜中を反対方向に伝播するスピン波の共鳴周波数が異なることを観測した。さらには、人工反強磁性面内磁化膜細線にパルス電流を印加することで、反対方向に伝播するスピン波の共鳴周波数を入れ替えることに成功した。本研究結果は、スピン波を用いた可変ダイオード素子の開発にもつながり、スピン波を用いた論理演算素子の研究を大きく発展させるものである。
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