研究課題
これまでの研究において,歯周病モデルマウスを用いた実験から,エリスロマイシンは歯周炎組織においてDel-1を誘導することによって免疫調整作用を示し,骨代謝を制御する可能性が示唆されている.当該年度の研究では,エリスロマイシン改変体ライブラリーからDel-1誘導能の強い改変体を見出すこと、またエリスロマイシンおよびエリスロマイシン改変体が機能する受容体および下流シグナルの同定を目的とした。まず、マクロライド改変体ライブラリーの中から強力なDel-1誘導能を持つエリスロマイシン改変体を見出すため、血管内皮細胞を用いたDel-1発現を測定するスクリーニング実験を行った。現在まで55種類のエリスロマイシン改変体に対して、スクリーニング実験を行っており、No.201等いくつかのエリスロマイシン改変体においては既存のエリスロマイシンを上回るDel-1誘導能を持つ可能性を認めた。並行して、エリスロマイシンが機能する受容体および下流シグナルの同定を目的として実験を行った。先行研究においてエリスロマイシンとの関連が報告されていたGHSRに着目した。通常量のGHSRが発現する血管内皮細胞ではエリスロマイシンの添加によってDel-1発現が上昇したが、GHSRをノックダウンした血管内皮細胞においてはエリスロマイシンによる同様の効果は認めなかったことから、エリスロマイシンがGHSRを介してDel-1の発現を上昇させることが示唆された。また、エリスロマイシンが機能する下流シグナルを同定するために、Del-1プロモーター領域を対象とした解析を行った。下流シグナルの各阻害剤を用いて解析を行ったところ、エリスロマイシンは受容体GHSRを介した2系統の下流シグナルが同定され,Del-1発現を上昇させる経路と炎症に起因したDel-1発現の低下を抑制する経路によって効果を発揮することが示唆された。
3: やや遅れている
国内の新型コロナウイルス感染拡大の影響から県境を跨いだ人の移動やエリスロマイシン改変体を含む試料の入手に制限があったため、実験の進捗に支障があった。そのため強力なDel-1誘導能を持つエリスロマイシン改変体のスクリーニング実験は計画した程の進展が見られなかった。スクリーニング実験が終了しなかったため,当該年度の研究計画に位置付けていたエリスロマイシン改変体が機能する受容体および下流シグナルの同定までは至らなかった。次年度は当該年度の成果によって得られた研究基盤を活用し、in vitroでの解析をさらに進めるともに、歯周炎モデルマウスを用いた動物実験の実施により、エリスロマイシン改変体のDel-1誘導による炎症性骨吸収制御について新たな知見を得ることを目指す。
前年度の研究において,エリスロマイシン改変体のスクリーニング実験は完了していないが,既存のエリスロマイシンを上回るDel-1誘導能を有した候補エリスロマイシン改変体をいくつ見出した.今後は,新型コロナウイルス感染拡大の影響が続き,計画通りに試料が入手できない期間が継続する可能性も考え,スクリーニング実験を継続して行うことに加えて,現段階のスクリーニング結果から有力なエリスロマイシン改変体を選択して,マウス疾患モデルにおけるDel-1誘導および炎症性骨吸収の治療効果の解析を早期に開始する。具体的には歯牙結紮による歯周病モデルマウスを用いて実験を行う。結紮したマウスへDEL-1を強く発現する候補エリスロマイシン改変体をマウスへ経口投与する。結紮から9日後に歯肉サンプルを回収し,qPCR法およびELISA法にてエリスロマイシン改変体のDEL-1再誘導機能を測定する。さらにマウス上顎骨骨表補を作製し,実体顕微鏡ならびにμCTを用いて,歯槽骨吸収量を測定することによって,骨吸収に対する作用を解析する。加えて,薬剤耐性へのリスクを確認するために,結紮に付着した細菌を採取および培養し細菌数を算定する。この結果から,選択したエリスロマイシン改変体が抗菌作用を示さないことを確認する。スクリーニング実験が終了し,さらに強い効果が期待できるエリスロマイシン改変体を見出した場合は,再度同様の動物実験および解析を行う。最終的に最も有力な作用を持つことが示唆されたエリスロマイシン改変体に対して,受容体ならびに下流シグナルの同定を行う。既存のエリスロマイシンにおける作用機序は前年度に明らかとしており,同様の手法を用いて,エリスロマイシン改変体の作用機序解析を行う。これら2年間の実験によって得られた研究結果をまとめ,国内および国際学会において成果を発表し,英文の学術雑誌への投稿を目標とする。
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