これまでに歯周病モデルマウスを用いた実験から,エリスロマイシンは歯周炎組織においてDel-1を誘導することによって免疫調整作用を示し,骨代謝を制御する可能性が示唆された.まず新規抗炎症物質として有力な候補となるエリスロマイシン誘導体を探索するため,血管内皮細胞もしくは単球系細胞に各エリスロマイシン誘導体を添加し,Del-1と炎症性サイトカインの発現を測定するスクリーニング実験を進めた.その結果,いくつかのエリスロマイシン誘導体添加群において,Del-1の高発現および炎症性サイトカインの低発現を認めた.続いて血管内皮細胞,単球系細胞および歯肉上皮細胞を用いて,上記実験より得られた有力な候補エリスロマイシン誘導体の細胞傷害性を試験した.いずれの候補エリスロマイシン誘導体群においてもPBS対照群と比較して有意な差はなく,細胞傷害性を認めなかった.そこで,上記候補エリスロマイシン誘導体を用いて,動物実験を実施した.歯牙結紮による歯周病モデルマウスを用いて,候補エリスロマイシン誘導体の炎症性骨吸収に対する作用ならびに結紮糸付着細菌数に対する影響を解析した.まず薬剤耐性へのリスクを確認するため,結紮糸に付着した細菌を採取および培養し細菌数を算定したところ,結紮+候補エリスロマイシン誘導体投与群は結紮糸に付着した細菌数に影響を与えなかった.続いてマウス上顎骨の凍結切片を作製し,TRAP染色を行った.結紮した歯周囲の破骨細胞数を測定した結果,結紮+候補エリスロマイシン誘導体投与群の破骨細胞数は,結紮+PBS投与群と比較して低値を示した。すなわち,候補エリスロマイシン誘導体は,抗菌作用を示さずに炎症による歯槽骨吸収を抑制できる可能性があることが示唆された.今後さらに候補エリスロマイシン誘導体の炎症性骨吸収に対する効果および作用機序の解析を進め,将来的には新規治療薬の開発を目指している.
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