癌関連線維芽細胞(carcinoma-associated fibroblasts: CAFs)は、不均一な亜集団から構成されていることが近年明らかになり、癌促進的CAFs亜集団を同定する手法の確立や、出現メカニズムの解明が必要である。本研究ではこれまで、ヒト乳癌組織中のCAFsではグローバルヒストンアセチル化が非腫瘍部に存在する線維芽細胞に比べて低下していることを見出していた。また、筋線維芽細胞様CAFsではtransforming growth factor-β (TGF-β)シグナルが恒常的に活性化していることが知られている。そこで令和3年度は、CAFsでヒストンアセチル化が低下しているメカニズムの解明を目指し、癌微小環境の特徴の一つである低栄養状態に着目した。グルタミン欠乏培地でヒト正常乳腺線維芽細胞株を培養すると、グルタミン含有培地で培養した場合に比べて、ヒストンH3とヒストンH4のグローバルアセチル化が減少することを見出した。さらに、グルタミン欠乏培地で培養された正常乳腺線維芽細胞では、TGF-βシグナルを媒介する転写因子であるSmad2のリン酸化や、TGF-β標的遺伝子のmRNA発現が上昇しており、グルタミン欠乏条件により正常線維芽細胞でTGF-βシグナルが活性化し、部分的に筋線維芽細胞様CAFsに類似した状態が再現されることを見出した。本研究結果より、癌微小環境の低栄養状態が正常線維芽細胞にヒストンアセチル化の低下を引き起こし、そのことが正常線維芽細胞をCAFsに分化転換させる原因の一つになっている可能性が示唆され、CAFsの出現メカニズムの理解に発展があったと考えられる。
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