ニュートリノ振動は、素粒子標準模型の枠組みを超えた唯一の実験事実であり、ニュートリノ振動の精密測定から統一理論等の新しい素粒子理論を構築するうえでの手掛かりが得られると考えられている。特に長基線ニュートリノ実験では、物質と反物質の対称性の違いであるCP位相の測定や、新たな対称性を示唆するθ23が最大混合であるかの検証を行うため大統計実験が計画されている。しかし、これらの目標を達成するためには大統計実験による統計誤差の削減に加えて系統誤差の削減が必須である。 本研究では原子核乾板を用いてニュートリノ反応の精密測定を行うことを目的としている。原子核乾板はサブミクロンの位置分解能を持ちニュートリノ反応点近傍の詳細解析が可能である。また、検出器の構造から多様な標的核種の選択が可能であり、本研究においてはスーパーカミオカンデ検出器と同じ標的である水標的での反応解析を行う。これにより、現在系統誤差の主要因となっているニュートリノ反応による不定性を削減することを目標としている。 当該年度の研究では、約100m2という大量のフィルムから得られたデータに対してニュートリノ反応の検出を行うために、飛跡処理プロセスの改良を行った。改良は大きく3つあり、1枚のフィルム内での飛跡選別アルゴリズムの改良によるS/Nの向上、2枚のフィルムの位置合わせの高精度化および接続処理の高速化、複数のフィルム間での飛跡接続組み合わせの選択最適化である。これらの開発により、高検出効率でのニュートリノ反応検出を現実的な計算時間で行うことが可能になった。
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