旅行記の研究を博士学位論文「初期近代ドイツ語圏における旅行文化の成立――1650-1820年の旅行記を中心に――」にまとめ、知識史(Wissensgeschichte)という歴史記述方法論を社会制度や生物学の哲学、認識論や科学哲学を参照して検討した上で、その方法論と初期近代の歴史記述的な知識の分析の関係を明確にした。この考察に基づき18世紀ドイツ語圏の旅行文化と旅行記の変遷に関する分析をし、種々の作法書や旅行手引(Apodemik)、博物館論(Museographie)、旅行禁令に関するパウル・ヤーコプ・マーペルガー(1656-1730)のテクストを参照しながら、ヨハン・ゲオルク・カイスラー(1693-1743)やヨハン・ヤーコプ・フォルクマン(1732-1803)、ヨハン・ヘルマン・フォン・リーデゼル(1740-1785)、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ( 1749-1832)、ゲオルク・フォルスター(G1754-1794)、アレクサンダー・フォン・フンボルト(1769-1859)やマクシミリアン・ヴィート=ノイヴィート王子(1782-1867)などの旅行記を通時的に関連づけて解釈した。 これに加え、研究課題の一部をなす18世紀ドイツ語圏における人間学を自然法思想や医学的実践、文学論と照らし、「魂の自然学」に巡ってどのような議論が展開されていたかを俯瞰し口頭発表した。また、ヨハン・ハインリヒ・ゴットロープ・フォン・ユスティ(1720-1771)やヨハン・ベックマン(1739-1811)らの官房学を人口増大政策やエコノミーの概念史を背景に分析し、技術と国家の関係について考察した論文を投稿した。また、思想史研究と哲学研究の間で、18-19世紀の自然哲学や初期進化論の受容での議論を土台に生物学の哲学で議論されてきた生物学的機能の概念について考察して口頭発表した。
|