研究課題/領域番号 |
20J15528
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田口 貴美子 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 火山監視 / 低周波地震 / 流体特性 / 波形解析 / 草津白根山 / ガレラス山(コロンビア) |
研究実績の概要 |
本年度は(1)火山浅部流体の状態把握に用いるLPイベント震源クラックのサイズや流体特性(流体中の音速、密度など)の推定手法の改良、および(2)LPイベント発生過程の解明に必要なクラック振動を励起する流体圧力変化の大きさや時間スケールの推定に向け、その圧力変化が起きたクラック中の位置の推定を行った。 (1)に関しては流体を含む薄い矩形クラックの振動による地震波形の減衰率と周波数を観測波形のものと比較することで推定される。クラック振動波形の減衰率と周波数は従来数値計算により得られてきたが、観測波形の減衰率が大きいほど計算に時間がかかるほか数値不安定を起こしやすく流体の状態把握に用いることはできなかった。そこで本年度はまず周波数については近年提案された解析式、減衰率については数値計算の結果から独自に導出した経験式により計算する手法を開発した。これにより波形減衰率の小さなLPイベントに対しては従来の手法と同様の結果が得られたほか、減衰率の大きなLPイベントに対するクラックサイズと流体特性も推定されるなど本研究の手法の実用性を確かめることができた。以上の成果は国際誌に学術論文として発表した。 (2)に関しては従来の手法ではクラックサイズと流体特性の同時推定が困難だったこともありほとんど行われていなかった。しかし(1)の手法を草津白根山およびガレラス山(コロンビア)でそれぞれ熱水活動とマグマ活動に関連して発生したLPイベントに適用したところ、得られた結果を整理することで圧力変化の位置に関する制約条件が得られた。この条件は2つの火山で異なっており、これに基づきクラック振動の数値計算を行い観測波形と比較した。すると振動を励起する圧力変化は草津白根山ではクラックの端、ガレラス山では端から一定距離離れた位置で起きたことを示す結果が得られた。この結果は国内外の学会で発表し、学位論文としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績で述べた2つのうち、(1)の本研究で開発した震源クラックのサイズや流体特性の推定手法はLPイベント波形の減衰率によらず適用できるものである。実績の概要でも述べた通りこの手法による推定値は従来の手法によるものとの整合性も確認できており、ほかの火山で観測されたLPイベントにも適用することで浅部火山活動の監視への応用が期待できる。しかしこの手法による推定値の他項目観測データとの整合性を確認するには至っていない。クラックサイズや流体特性の推定は実績(2)の元にもなっていることから、この整合性の確認は必要不可欠である。さらにこの手法が基づくクラックの形状は従来の手法と同様に薄い矩形のものを仮定しており、この仮定の妥当性についても検証が必要である。 LPイベントを励起する圧力変化はその大きさや時間スケール、位置により定義され、波形の振幅はこの3つにより変化する。このうち実績(2)の位置の推定は、例えばマグマ破砕がLPイベント発生に関与する場合はそれがクラックのどこで起きたのか制約できるなど貴重な成果である。しかし当初予定していたよりも位置の推定に大幅に時間がかかり、圧力変化の大きさや時間スケールの推定まではできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のLPイベント解析手法を火山浅部流体の状態監視に応用するため、またLPイベントを励起した圧力変化に関する制約条件を正確に得るためには、その元となるクラックサイズや流体特性の推定値の妥当性に関して検証を行う必要がある。そこで2021年度は矩形クラックと楕円クラックの振動による波形を比較することで波形の解析手法の妥当性を検証するほか、この手法の適用によるクラックサイズなどの推定値と他項目観測データの整合性の確認を行う。 従来の手法や本研究の手法ではLPイベント震源クラックを薄い矩形割れ目で近似しているが、野外で観測されるものは端にかけて幅や厚さが狭まる楕円体に近い。そこでまず矩形クラックでは一定としていた幅方向、厚さ方向の大きさを端に向かうほど小さくなるようなプログラムを作成・計算する。これにより計算される地震波形との比較により、実際に野外で観測される形状の割れ目の振動に対する矩形クラック振動の近似度を調べる。 次に傾斜変動や火山ガス噴出量などの他項目観測データとの比較により、本研究の手法によるクラックサイズなどの推定値の妥当性を検証する。これにあたっては他項目観測データが震源近地で取得されている草津白根山で近年観測されたLPイベント波形を解析し、クラックサイズの推定のほかそのサイズのクラック開口による傾斜変動の計算も行う。
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