本年度は(1)これまでに考案した火山性低周波地震(long-period (LP) イベント)震源のクラックサイズ・流体特性推定手法を新たに草津白根山で1989-1991年に観測されたLPイベントにも適用したほか、(2)楕円クラックの振動による地震波形の計算に着手した。 (1)で用いた手法では、まず観測波形の周波数スペクトルでみられる複数のピークのうち、一番低次のものに対しクラックの振動パターンを仮定する。そして薄い矩形クラックの振動による地震波形の周波数や減衰率を観測波形のものと比較することで、震源クラックサイズと流体特性を推定する。この手法を適用した結果、今年度新たに解析を行ったイベント震源クラックのサイズと流体特性は前年度までに解析した期間のものと同様に時間変化を示すことが分かった。この結果は国内学会で発表した。 しかし推定されたクラックサイズは観測波形の振幅から推定されるモーメントと整合しないことも明らかになり、これは解析を行う際に仮定したクラックの振動パターンに起因することがわかった。この結果は、より正確に振動体サイズや流体特性を推定し火山浅部の流体の状態のモニタリングに役立てるには、本研究のLPイベント解析手法に地震モーメントの推定も組み込む必要があることを示している。 以上のように本研究で用いる解析手法はLPイベント震源として考えられる流体を含む割れ目を薄い矩形クラックで近似したものであるが、野外で観測される割れ目は端にかけて幅や厚さが狭まるものである。そこで今年度末に、矩形クラックでは一定としていた厚さ方向の大きさを端に向かうほど小さくするプログラムの作成に着手した。来年度の初めにこのプログラムを完成させ、実際に野外で観測される形状の割れ目の振動に対する矩形クラック振動の近似度を調べる予定である。
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