本研究では、医薬品や香料などの様々な用途があり産業的価値の高い植物二次代謝産物を高生産する組換え酵母を作製するために、グルコースから目的の植物二次代謝産物に至る多段階の代謝反応を改変する手法の開発を目指した。 令和3年度は、前年度に検討した手法によるパチョロール生産酵母の作製を検討した。まず、解糖系から異種経路に至る24種類の代謝酵素遺伝子と15種類の異なるプロモーターを網羅的に組み合わせたDNA断片を作製した。そして、前年度に検討した手法により、作製したこれらDNA断片を酵母染色体の多数箇所に挿入することにより、標的代謝酵素の発現量がランダムに改変された多数の組換え酵母株を作製した。代謝改変を複数回行う場合、手法の特性上、代謝改変途中に標的遺伝子発現量が低下する場合があることが確認された。ただし、代謝改変時に、前の代謝改変の標的遺伝子を重複させることにより、遺伝子発現量の低下を抑制できることが示唆された。本研究で作製した組換え酵母においては、代謝改変後にピルビン酸以降の多数の代謝酵素遺伝子(PDC1、ERG10、ERG20など)の発現量が増加した一方、解糖系酵素遺伝子の発現量は増加しておらず、ピルビン酸以降の代謝反応が二次代謝産物生産に大きく寄与する可能性が示唆された。さらに計算シミュレーションにより、パチョロール生産量向上に寄与する複数の破壊候補を推定した。ただし、期間内に実際に破壊株を作製することはできなかった。また、本研究で作製した組換え酵母株を用いて回分培養を実施し、20 g/Lグルコースから25 mg/L-cultureを生産させることに成功した。さらに、流加培養によって同株のパチョロール生産量を2.6倍に増加させることに成功した。 本代謝改変法は酵母における多段階の代謝を改変でき、今後、様々な多段階代謝経路の強化や律速経路の探索といった利用が期待できる。
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