研究課題/領域番号 |
20J15602
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢木 智章 京都大学, 京都大学大学院工学研究科分子工学専攻, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶化 / 核生成 / 古典密度汎関数理論 / 自由エネルギー地形 |
研究実績の概要 |
本研究課題は結晶化過程を分子論的に理解することを目的にしている。本年度は次の三つのサブテーマに取り組んだ。 (1)結晶界面における溶媒和理論の開発:相互作用点モデルに基づいて、結晶界面における古典密度汎函数理論の定式化を行った。RISM方程式と組み合わせて、結晶界面まわりの溶媒密度分布を自己無撞着に決定する積分方程式を導出した。テスト計算とし、極性の二次元結晶のまわりにおける水、メタノール、アセトニトリルの溶媒和構造・熱力学量を計算し、モンテカルロシミュレーションの結果と比較して、新規手法の妥当性について検討した。 (2)密度場空間中の自由エネルギー地形上における結晶核生成経路の探索法の開発:均一液体状態における局所的な微小な密度揺らぎから出発して、結晶核の生成へと至る経路を探す方法の開発を行った。Fundamental measure theoryより与えられる自由エネルギー汎関数を用いて、剛体球液体について解析を行った。均一液体状態の構造因子に基づいて生成した初期密度ゆらぎに対して、そのゆらぎが自由エネルギー地形上で熱的に最も増幅しやすい方向を調べ、結晶核の生成経路の探索を行った。 (3)高精度計算に向けた自由エネルギー汎関数の自己無撞着な構成方法の開発:直接相関関数についてのBaxterの関係式に基づいて、分子間の高次の相関関数についての階層的積分方程式を導出した。この方程式を自己無撞着に解くことによって、重み付き密度近似から自由エネルギー汎関数を構成する方法を開発した。本手法によって得られた自由エネルギー汎関数を用いて、剛体球流体、Lennard-Jones流体、Yukawa流体の構造・熱力学量を計算し、従来の汎関数と比べて、その計算精度が系統的に改善することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶界面における古典密度汎関数理論(古典DFT)の定式化を行ったことにより、溶液-結晶界面における結晶成長の分子理論への展開の道筋を立てることができた。また、分子間の高次の空間相関を取り入れた自由エネルギー汎関数の構成方法の開発により、計算精度の系統的改善にも成功しており、従来の古典DFTの欠点を克服しつつある。古典DFTに基づいて自由エネルギー地形の探索法の開発にも着手しており、結晶核の生成経路の解析ができる段階に達している。以上のことから、本研究課題の目的であった結晶化過程の分子理論の構築は、おおむね順調に進展しているものと評価出来る。
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今後の研究の推進方策 |
本年度取り組んだサブテーマ「密度場空間中の自由エネルギー地形上における結晶核生成経路の探索法の開発」を軸にして研究を推進する。本手法は分子密度場についての関数空間における探索であり、その空間は膨大である。そのため、探索の出発点(初期密度揺らぎ)を適切に選ばない限り、生成経路を見出すことが困難である。また初期密度揺らぎに応じて経路そのものも無数に存在するため、核生成経路の網羅的な探索も困難である。これらの困難を解決する為に、まずは均一液体状態における密度場の熱揺らぎに対象を絞って、この揺らぎから核生成へといたる経路を調べる。得られた経路を特徴付ける秩序変数を特定し、核生成における反応座標について考察する。また異なる結晶多形へと至る経路を特定し、多形選択の分子論的機構を調べる。
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