研究課題/領域番号 |
20J15615
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
西尾 隆佑 静岡県立大学, 静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士課程薬学専攻, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 亜鉛 / 酸化ストレス / TRPM2 / パーキンソン病 / 6-ヒドロキシドパミン / グルタミン酸興奮毒性 / 神経変性 / ドパミン |
研究実績の概要 |
パーキンソン病は黒質ドパミン作動性神経の変性が原因であるが、この神経変性のメカニズムは解明されていない。これまでに6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)誘発ラットパーキンソン病では、AMPA受容体活性化を介して黒質ドパミン作動性神経に細胞外Zn2+が過剰流入し、神経変性が惹起されることを報告した。本研究では、細胞外Zn2+流入のメカニズムを追求した。ドパミン代謝物である6-OHDAはドパミントランスポーターによりドパミン作動性神経に取り込まれ自動酸化により過酸化水素(H2O2)を産生する。H2O2は細胞膜を通過して逆行性に輸送され、プレシナプスのグルタミン酸作動性神経終末に発現するH2O2感受性カチオンチャネルTRPM-2を活性化させ、グルタミン酸放出を促進させると考えられる。その結果、細胞外Zn2+が流入すると仮定し、この考えを検証した。ラット黒質に6-OHDAを投与すると黒質の細胞内H2O2濃度は増加した。ラット黒質をH2O2で灌流すると、細胞外グルタミン酸濃度が増加し、この増加はTRPM-2阻害剤であるN-(p-amylcinnamoyl)anthranilic acidで抑制された。以上から、6-OHDA誘発H2O2は細胞膜を通過し、グルタミン酸作動性神経のTRPM2チャネル活性化させ、グルタミン酸放出を促進させることが示された。さらに6-OHDAによる黒質ドパミン作動性神経の変性は細胞内外Zn2+キレーター、ドパミントランスポーター阻害剤であるGBR13069またはH2O2消去剤であるHYDROPTMの同時投与で阻止された。すなわち、ドパミントランスポーターにより取り込まれた6-OHDAはH2O2産生を介して黒質ドパミン作動性神経細胞内Zn2+恒常性を破綻させ、ドパミン作動性神経変性を惹起することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究に計画的に取り組み、年次計画に記載した通り順調に研究を遂行し、黒質ドパミン作動性神経に投射するグルタミン酸作動性神経終末を過酸化水素が興奮させるメカニズムとしてTRPM-2チャネルの活性化が関与することを明らかにし、学会でその研究成果を発表することが出来ました。また並行して年次計画通りに、加齢に伴うドパミン作動性神経変性の増悪にグルタミン酸興奮毒性を介した細胞外Zn2+流入量の増加が関与することを明らかにし、その研究成果を論文としてNeurotoxicologyに報告することが出来ました。現在では、上記研究成果をより詳細に展開した検討にも着手できており、その研究成果を論文として報告しようとしています。また、年次計画を前倒しし、線条体ドパミン作動性神経終末からの神経変性・脱落に関する検討課題や、黒質ドパミントランスポーターに着目した神経変性・脱落に関する検討課題にも着手することが出来ています。上記の理由から特別研究員の研究進歩状況については、期待以上に研究の進展があったと評価致しました。
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今後の研究の推進方策 |
パーキンソン病で選択的に変性する黒質ドパミン作動性神経は黒質にある細胞体よりも線条体にある神経終末から神経変性がはじまるとの説も提唱されている。しかし、黒質においてドパミン作動性神経はグルタミン酸作動性神経とシナプスを形成する一方で、線条体ではドパミン作動性神経終末はGABA作動性神経とシナプスを形成する。大脳皮質からのグルタミン酸作動性神経終末は主にGABA作動性神経とシナプスを形成することから、線条体ドパミン作動性神経終末においては細胞内Zn2+毒性が惹起されないことが考えられる。この考えを実証する。また、DAT阻害剤であるGBRは、神経細胞内ドパミン恒常性を破綻させ、活性酸素産生によりZn2+毒性を惹起する可能性がある。本研究ではこの可能性を検証する。
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