格子熱伝導現象は非平衡熱輸送現象であるため、調和フォノン物性だけなく非調和フォノン物性を予測モデルに取り込むことで、より正確な格子熱伝導率の予測が可能となる。本研究では、多数の第一原理格子熱伝導率計算の結果を微視的に解析し、非調和フォノン物性を特徴づけるような、格子熱伝導率と相関が強くかつ計算コストの小さい特徴量を発見し、これを用いた格子熱伝導率予測モデルを作成し、ベイズ最適化を用いて逐次的に低格子熱伝導率を持つ物質の探索を行うことを目的とする。 2年目は、1年目で得た格子熱伝導現象における微視的機構の解析結果にもとづき、当研究室が保有するフォノンデータベースに登録されている約1万種の化合物を探索対象として、低格子熱伝導率を有する化合物の探索を行った。特徴量としては、1年目の研究において格子熱伝導率と強い相関のあることが判明した音響フォノンの群速度平均を用いた。結果として、Sr2SbAuやSr2AsAuなどの化合物が低格子熱伝導率候補物質となった。次にSr2SbAuおよびSr2AsAuに対して、第一原理フォノン計算を適用することにより、これらの化合物が 1W/(m-K)を下回る低格子熱伝導率を持つ化合物であることが判明した。詳細なフォノン解析を行うことで、これらの化合物においては、格子熱伝導率への寄与が音響フォノンによるものよりも光学フォノンによるもののほうが大きいことがわかった。
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